介護付き旅行事業のパイオニア SPIあ・える倶楽部 篠塚恭一さんに聞く コロナ禍で見えた「旅行」の持つ意味【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2021年10月号に掲載されました。

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新型コロナウイルスの感染拡大で、私たちは旅行に気軽に行きたいのに行けないという生活を味わっています。しかし、「高齢者や障害者の方は、かねてよりそうで、あきらめていたんです」と、株式会社SPIあ・える倶楽部(以下、あ・える倶楽部)の代表取締役社長であり、NPO法人日本トラベルヘルパー協会の会長も務める篠塚恭一さんは言います。あ・える倶楽部は、30年超の歴史がある旅行会社で、オーダーメイドの「介護付きの旅行」を開発しました。コロナ禍で見えてきた、介護旅行の持つ意味や効果についてお話を伺いました。

──この度、新型コロナウイルスのパンデミックにより国内外の旅行需要が落ち込み、旅行業界の業績は苦しいものとなりました。映像で旅行気分を味わえる「バーチャルツアー」の登場など試行錯誤があるなか、介護旅行はどのような状況にあるのでしょうか。

 1991年に会社を立ち上げたときは、旅行コンダクターやバス乗務員など観光にかかわる人材を育成して派遣する会社でした。そのうちお客様の高齢化が始まり、トラベルヘルパーという、障害のある人、要介護高齢者を介助する添乗員の育成を始めました。会社を立ち上げてから、ピンチを何度か経験してきましたが、ここまで長期間で、大規模な苦境というのは経験がありません。もともと2020年はオリンピック・パラリンピックの影響で旅行需要が高かっただけに、相次ぐキャンセルで反動が大きいと感じます。
 これまでも危機が何度かありました。会社を設立したばかりのとき、湾岸戦争が勃発して海外旅行ツアーが壊滅的になりました。その後、1996年に介護付き旅行を事業化すると会社の方針を決めたとき、社員の反対にあって多くの人材が会社から離れてしまいましたがなんとか乗り越えました。アメリカ同時多発テロ事件のときは、直後から欧米を中心に海外旅行のキャンセルが相次ぎ、回復まで時間はかかりましたが、国内旅行の道は残されていました。東日本大震災のときも自粛ムードで国内旅行のキャンセルは多かったのですが、限定的なものでした。
 しかし、今回は影響が大きく、期間も長引いています。2020年1月から新型コロナウイルスの影響でちらほら旅行のキャンセルが出始め、3月にはその年のほとんどの予約がキャンセルとなりました。最終的に2020年の売上の95%が減少しました。ただ、以前から、フリー契約のスタッフばかりで運営していたこと、コーディネーターなどは遠隔地からリモート形式で勤務している人もいたので、人件費より会社施設の維持費がかかるというのが当面の課題です。

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(写真:株式会社SPIあ・える倶楽部代表取締役社長の篠塚さん)

 ただ、以前に比べ、旅行成約率が上がりました。無料の旅行相談をオンラインに変えてみたところ、オンラインへの抵抗がなくなってきたのか、好評でした。お客様はトラベルヘルパーの顔が見えるので安心してくれますし、コーディネーターやトラベルヘルパーにとってもお客様の身体状況がわかるので、ご希望に沿った企画を立てやすく、介護を想定しやすいと言われました。

 旅行会社の売上が激減したのですが、二足の草鞋でもあるNPO事業に助けられました。コロナ禍で、2006年の設立からこれまでに1,400人以上を養成してきたトラベルヘルパーの養成講座への申し込みが増え、NPO法人日本トラベルヘルパー協会の運営が忙しくなっています。
 養成講座に参加する人が増えた理由の一つは、「コロナが落ち着いたら旅行に連れ出してあげたい」と思う、施設などで働く介護関係者からの申し込みが増えたことです。7割の方が介護福祉士やヘルパーですが、理学療法士、作業療法士ほか、他業種の方もいて、副業的にトラベルヘルパーの資格を取っています。その上、今は介護旅行に注目が集まっており、複数の企業が新事業にすべく、社員研修を受けさせたいというところが増えています。当社は25年の介護旅行のノウハウがあるので、第三者への事業譲渡は希望していないにもかかわらずM&Aの話が3件も舞い込んできて、ちょっと驚いています。でも、こうしてトラベルヘルパーがもっと増えれば、施設や交通事業者の協力体制が整い、障害のある人や高齢者が気軽に外出できるような環境が整い、介護旅行が広がっていくでしょう。バリアフリーのインフラが整うことは、超高齢社会に突入している日本にとって、これから高齢者になる世代にも、障害のある人たちにとっても、子育て世代にも、メリットがあるのではないでしょうか。

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(写真:海外旅行もヘルパーがいれば安心して出かけられる)

──宮藤官九郎さん脚本のドラマ「俺の家の話」(※)は、西田敏行さん扮する父親を長瀬智也さんが演じる息子が介護するという設定でした。ドラマ内の介護やいわき市への介護旅行の監修をされたそうですが、実際の、新型コロナ禍の中での介護旅行にはどんなものがありましたか?
(※)2021年1月22日から3月26日までTBSテレビ系で放送されていたテレビドラマ。

 もともと、高齢の方の希望する旅行というのは、有名観光地に行く華やかなものばかりではなく、お墓参りをしたい、ふるさとの景色が見たいなど意外と近場で地味なものが多いのです。しかし、2020年の前半は、新型コロナウイルスの実態も不明で、とにかく当たり前にできていたことが制約され、生活の質が大幅に低下した時期で、旅行などもってのほかという状況でした。
 介護施設で働く介護士さんやリハビリ担当の方たちから、「利用者さんが散歩や遠足に行けずに、イライラして乱暴になって手を焼いている」という話を聞くようになりました。また認知力が落ちている方などもいて新型コロナウイルスへの理解がなかなかできず、「介護士が私を閉じ込めている」と思いこんで、ときに暴れるようなケースも出ていました。こういう様子を見たり聞いたりして、介護現場で働く方々も、私たち旅行を提供する側も、改めて、移動の自由や人との交流、旅行のもたらす効果について考えさせられました。かねてから「1年のうちの360日をベッドの上で過ごせるのは、トラベルヘルパーと行く5日間の旅のことを毎日思い描いているからだ」とおっしゃってくださる高齢のお客様もいて、やはり旅行は「生きがい」でもあるのだと思います。

 コロナ禍の旅行は、「切実なもの」が多いですね。末期ガン患者さんで、余命宣告をされている3組の方の「最後の思い出」となる旅行をサポートさせてもらいました。ささやかな、本当にひっそりと出かけた旅行でした。すでにお二人はお亡くなりになりました。現在(2021年6月時点)も、アメリカにいる車椅子の夫を日本に帰国させたいという依頼を受けていますが、越えなければならない壁が何重にもあって非常に難航しています。今日もこれからアメリカ大使館と打ち合わせをします。
 他には、近隣ホテルの食事の付き添いや、首都圏の温泉地などの日帰り旅行です。それも緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されたときなどの合間をぬって行くという感じです。

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(写真:世界有数の山岳地帯カナディアン・ロッキーと氷河湖を眺める。)

──コロナ禍の中で、気がついたこと、再発見したことなどはありますか?

 コロナ禍で、私自身は、かつて、介護旅行のプロの育成を始めようと考えた一つの出来事を思い出しました。30年以上前のことですが、「流れたスキー旅行」というタイトルの新聞記事に目が留まりました。知的障害のある子どもたちの親が計画したスキーの旅行ツアーで、それがホテルから宿泊拒否にあったという内容でした。傷つけられた親の気持ち、安全を確保できないから・どうしたらいいかわからないから宿泊させられないというホテル側の理由、両方の苦しい立場が理解できました。何より、1年に1度の楽しみがなくなった子どもたちのことを考えるとやるせない気持ちになりました。
 本来、エージェント(代理店)というのは仲介業者で、子どもの使いでは意味がありません。お客様がどんな特性を持っていて、どこを工夫したら宿泊が可能になるか、ホテルとお客様の間に立って交渉する役割を持っています。「プロのエージェントであればこんな結果にはならなかったのに」と心に強く思った出来事でした。せっかく楽しみにしていた旅行を台無しにしたくない、旅行をあきらめてほしくない、その初心は今でも変わらないことを再認識しました。それから、自分はお客様の旅を想像し、一緒に形にしていくことが大好きなのだと改めて実感しました。

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(写真:結婚35周年にハワイ旅行に行きたいというオーダーにも応えた。)

──コロナ禍で、自由に移動できないつらさを知りましたが、誰にとっても、旅行は大切なものです。今後は、「旅行をめいっぱい楽しめるよう、温かく見守り、ときに手を差し伸べるような、心のバリアフリーも実現していきたい」と篠塚さんは語られていました。

篠塚 恭一(しのづか きょういち)
大手旅行代理店の添乗員を経て、1991年に添乗員派遣などを行う(株)SPIあ・える倶楽部を設立。同社代表取締役社長。高齢者や障害者向けの旅行サービスを提供。トラベルヘルパーの人材育成にも力を入れており、2006年にNPO法人日本トラベルヘルパー協会を設立し、理事長に就任。

株式会社SPIあ・える倶楽部 TEL:03-6415-6480(代表) FAX:03-6415-6488
〒156-0051 東京都世田谷区宮坂 3-24-11 1F https://www.aelclub.com/

(文/平井明日菜 写真/(株)SPIあ・える倶楽部提供))


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