「湘南ベルマーレフットサルクラブ」スポーツで地域をエンパワーメント【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2023年10月号に掲載されました。

湘南ベルマーレフットサルクラブのコミュニケーター
加藤雅大さんに聞く
スポーツを通じて地域を
エンパワーメントするクラブチーム

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 少子高齢化の日本社会で、体力や健康を支えるために「生涯スポーツ」に注目が集まっています。スポーツを通して様々な人のチカラを引き出し、繋げて、地域の社会課題解決を行うことを目標に掲げる、総合型地域スポーツクラブ「湘南ベルマーレフットサルクラブ」は、今や地域スポーツを担う中核的存在です。湘南ベルマーレは強豪チームでありながら、試合のエンターテインメント性向上やスポーツを起点とした社会課題の解決にも取り組む特色のあるチームです。しかし、フットサル界全体の人気は低空飛行が続いています。そのような状況を打破するため、新たな取り組みを開始した加藤雅大さんに話を聞きました。

 フットサルは、サッカーコートの9分の1の広さを使って、5人でプレイします。
 都会のビルの屋上をコートとして活用するフットサル専用施設もあり、会社帰りに仲間とプレイして汗を流すなど、フットサルは、サッカーより気軽に行えるスポーツとして若者を中心に人気があります。
 「しかし、スポーツといえば日本では野球やサッカーの方が歴史もあり、人気が根強いですし、何より集客の点ではフットサルのプロリーグは低迷しています。まだマイナースポーツなんです」と意外な答えが、加藤雅大さんから返ってきました。

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(写真:湘南ベルマーレのホームアリーナでの試合の様子)

試行錯誤のFリーグで、地域を盛り上げる

 フットサル競技人口は約120万人で、サッカーの約380万人、野球の約610万人と比べると多いとはいえません。また、競技場での観戦者数はプロ野球、Jリーグ、高校野球の順に多くなっています。フットサルのプロリーグ(Fリーグ)の入場者数は、コロナ禍の2021−22シーズンには約6万人で、1試合の平均入場者数にすると約1,000人となります。この数の観客収入ではチームの運営は難しい状況です。湘南ベルマーレフットサルクラブ(以下、湘南ベルマーレ)も含め、Fリーグでは、選手としての報酬は支払われていないチームがほとんどで、地元の企業や個人がスポンサーとなってチームを支えています。
 「観客動員数は、プロスポーツの世界ではとても重要です。それによって、スポンサーを集めやすくなり、大きな資本が集まれば、優秀な人材も確保できます。この5年間でホームでの試合の観戦者数の平均を1,000人から3,000人に増加させることを目標にしています」
 湘南ベルマーレは、西湘地域の3市8町(小田原市、南足柄市、秦野市、中井町、大井町、松田町、山北町、開成町、箱根町、真鶴町、湯河原町)をホームに、小田原の室内施設である「小田原アリーナ」をホームアリーナとして活動しています。特徴は育成型クラブという点で、トップチームからジュニアチームまで、約700名の選手が所属し、日々、切磋琢磨しています。
 湘南ベルマーレのクラブミッションは『Chance&Empowerment(チャンス アンド エンパワーメント)』で、『スポーツを通じて、機会をつくり チカラを引き出す。』をスローガンに掲げています。これは、プロフットサルクラブがスポーツの枠を飛び越えて、地域にある課題を共有し、その解決を行うというものです。
 「地域や地元企業に愛されるチームとなるために、選手やチームスタッフがアリーナから地域に出ていく機会を作っています。具体的には小学校、福祉施設、NPO、企業などに出向いて、フットサルを教えたり、試合に子どもたちを招待しています。ときには、障害のある人たちと農業を一緒にやってみたり、フードロスの解決を手伝ってみたり。それぞれの企業や団体が地域で抱える課題解決のお手伝いをしています。人と人、企業と企業をつなぐと、誰かが誰かの困りごとを解消できる。その過程で、地域全体が元気になっていく。『気がついたら、ワクワクするような地域になっていた。そこに実は湘南ベルマーレが関係していた』というようなことを目指しています」

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(写真:小田原アリーナ外観)

地方に「愉しい」をふやしたい

 加藤さんが今、考えを巡らせているのは、「フットサルに興味がない人をいかに振り向かせるか」です。いきなり試合に足を運ぶのはハードルが高いでしょう。しかし、アリーナ会場前の広場(場外)ならどうでしょうか。
 これまでに、場外のイベントスペースでは、キッチンカーや、地元の飲食店の出店を呼んだり、子どものための大型遊具を設置したりと、様々な取り組みをしてきました。最近になって新たに始めたのは、チームカラーの緑を全面に押し出したキャストの登場で、加藤さんはコスチュームをデザインしました。緑の伊達メガネに緑の帽子姿は、何かのキャラクターのようで面白くてどこかダサく、それでもなぜか魅力的で、その人たちの存在が試合前のドキドキする独特の雰囲気を盛り上げています。近くで同じコスチュームを売っているので、キャストと同じ格好をして歩くという楽しみ方もあります。
 「場外で楽しそうなことをしているなと思ってもらいたいですね。芝生に寝転んでみたいから、ビールが飲みたいから、とカップルならデートに、ファミリーならピクニックのつもりで、場外のイベントに足を運んでもらいたいです。それをきっかけに試合を見てみようかという人も出てくるはずです」
 加藤さんは、もう一つ大きな仕掛けを作りました。それは湘南ベルマーレのコンセプトにのっとり、地域を盛り上げるコミュニティ「西湘エンパワーメントの会」の設立です。「神奈川県の西部(西湘)をより面白くするために、愉しみながら人がつながる」ことに重きを置いた会です。会の主催者は、湘南ベルマーレですが、それをあえて前に出さないようにして、交流会などのイベントを行います。
 「僕自身、人と話すことやつながることが大好きで、コロナ禍でそれが容易にできなくなったときは本当に辛かったんです。だから、人と人をゆるくつなげる会を作り、毎回異なるゲストスピーカーを呼び、いろいろなテーマで話をしてもらって、それを肴にしながら飲み会をするイメージです。ただの飲み会だと、繰り返し開催するうちに、来る人が固定されてしまって、結果として参加者も減ってしまいます。そうならないように工夫しました」

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(写真:キャストの皆さん。緑のコスチュームで目をひく)

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(写真:アリーナ場外のイベントの様子)

あえて湘南ベルマーレ色を消した狙いとは

 「西湘エンパワーメントの会」は、今人気のサウナとコラボした交流会を開催しました。サウナというと、一般的にはサウナ施設まで足を運ばないとなりませんが、テントを利用した「テントサウナ」なら、川や海べり、半屋外のスペースがあれば気軽にサウナが設置できます。屋外に張った専用のテントの中で地元の間伐材を薪ストーブで燃やし、真鶴町で採掘される本小松石をストーブの上で熱し、水やほうじ茶などをかけて蒸気を起こします。
 「ふだんは南足柄市で行っていますが、テントや薪ストーブは移動できるのでテントサウナはどこでもできます。ただ、ふつうに考えると、昨日までなかったところでサウナができるわけですから、話題になりますよね」と加藤さんは笑います。

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(写真:自然の中で体験できるテントサウナ)

 これまで会に参加された方は、サウナ好き、お酒好き、人が好きな人、僧侶、デザイナー、移住者など、バラバラです。加えてフットサルに全く興味がない人が数多くいます。加藤さんは、そこが狙いといいます。
 「参加した人にお願いしているのは、会の公式LINEに登録することのみですが、スタッフは湘南ベルマーレの関係者がほとんどなので、個人個人が仲良くなっていくと、自然とフットサルのことも話題に上り、『じゃあ今度、一緒に試合に行ってみようか』となるんです。われわれが主催ということを前面に出さないことで、参加者の裾野が広がります。また、湘南ベルマーレでは今年になって初めて新卒採用したのですが、その社員が会の指揮を取っていることで、女性の方も安心して参加できる雰囲気を作り、まだまだ少ない女性ファンが増える可能性にも期待しています」
 実際に取材時には、「テントサウナに興味があって、隣町の友人と会に参加したのですが、湘南ベルマーレの社長がいて、『何でここに!?』とびっくりしました」という女性がいました。
 株式会社湘南ベルマーレフットサルクラブの代表取締役社長の佐藤伸也さんは、藤沢市出身で、2007年の新リーグ開幕時にフロントスタッフとしてチーム入りしました。2022年4月に佐藤さんが代表に就任してからは、チームの強化と地域浸透を目標に掲げ、この「西湘エンパワーメントの会」には毎回、顔を見せています。回数を重ねるごとに来る人の層が広がっていて、手応えを感じているといいます。「まだこんなにおもしろい人がこの地域にいたんだという驚きがあり、この先、もっともっと濃い繋がりができて、どんどん地域が面白くなるんじゃないかな。それはクラブチームにとってもプラスになります。最終的にはアリーナをお客様で満員にすることが目標ですが、それにはこのような地道な活動が何より大事です」と佐藤社長は話します。
 スポーツクラブである以上、チームの強化や運営に注力しつつも、それにとらわれすぎることなく、フットサルを通じて、人や企業をつなぎ、地域を愉しくすることを大事にしている、湘南ベルマーレ。地域コミュニティの衰退が懸念される社会において、湘南ベルマーレは多くの人に支えられ、ますます共感の輪を広げていくことでしょう。

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(写真:西湘エンパワーメントの活動の様子)

加藤雅大 かとうまさひろ
株式会社湘南ベルマーレフットサルクラブ・コミュニケーター。採用コンサルティング会社・Webマーケティング会社を経て、神奈川県南足柄市にUターン。現在は、「地方に『愉しい』をふやす。」をコンセプトに株式会社アフリクションを設立。地域とスポーツを盛り上げるため、湘南ベルマーレでは、大学生と社会人向けの人材育成プログラムや会場集客のプロデュースを担当。
株式会社湘南ベルマーレフットサルクラブ
JリーグのJ1で活躍する湘南ベルマーレを含む総合型地域スポーツクラブのフットサル部門。「スポーツ×福祉×農業プロジェクト」ではアスリートが実際に農業に参加する取り組みを実施し、スポーツ庁主催のスポーツビジネスを拡張させる「INNOVATION LEAGUEコンテスト」において、その取り組みが「2022年度大賞」を受賞。
〒258−0016 神奈川県足柄上郡大井町上大井408番地1 ZUCC FUTSAL BASE大井2階 TEL:0465−43−6606

(文/平井明日菜 写真/取材先提供)


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