林業者・社会福祉法人・企業に聞く 地域と暮らしに根ざす森の仕事と森林環境税【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2022年10月号に掲載されました。

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上段左から天野さん、宮田さん、三木さん
下段左から社会福祉法人「福祉楽団」照井さん、パタゴニア日本支社の中西さん、高野ランドスケーププランニングの金清さん

 2024年から国民1人当たり年額1,000円ずつ徴収される「森林環境税」は、2019年から全国の都道府県と市町村に森林環境譲与税として先行配分されていますが、一部のメディアでは「5割が使われず」と報じられており、「予算の使い道がわからない」とアイデアづくりに頭を抱える自治体職員もいるようです。一方で、すでに森林の価値に気がつき、その資源を生かす仕事を作り出している人たちが出現しています。自ら山に入って木を切り、搬出し、山を育成していく自伐型林業の手法を取りながら、森で働き、森で遊ぶことを実践している3人の若手林業者、1つの社会福祉法人、2つの企業に、地方の森で仕事を創る・働くことについて伺いました。

──コロナ禍で働き方や価値観が変化し、地方移住やワーケーション、副業などの動きに注目が集まり、都会で働く人たちの中にも森で遊ぶ、森で働くという選択肢が生まれています。

天野紗智さん:私はプロスノーボーダーであり、林業者でもあります。仲間たちと一般社団法人を立ち上げ、地域の山を維持管理する山守(やまもり)をなりわいとしながら、スノーボードをして暮らしています。山守の仕事は、多様なライフスタイルと相性がよく、個人の自由な活動を制約しないので、仕事と自分の時間といった遊びとのバランスが整えられます。
 雪国、秋田県の出身で、人の心に響くような表現をするスノーボーダーに憧れてスノーボーダーになりました。林業に関わるようになったのは、2019年にカナダを訪れたときの影響が大きいです。仕事も遊びも当たり前のように自然に寄り添っている生活を目の当たりにし、私も自然とともに生きていきたいと確信しました。スノーボードをしているので、自然の恩恵とともに気候変動や自然環境の変化を肌で感じています。表現フィールドである自然を自らの手で守りたいとの想いから、カナダから帰国後、持続可能な自伐型林業に出合って、実行しています。

三木真冴さん:僕は埼玉県出身で、岩手県の釜石市で林業をしています。当時勤めていた東京のNGOによる復興支援の仕事で、東北に5年間住んでいましたが、復興支援事業撤退のタイミングで、釜石市に移住を決意しました。
 震災後にたくさんの方が仙台や東京などの都市に移動し、被災地では人口が減少しました。一方で、大きな防潮堤、新しい橋ができて、少ない人口でそれを維持していかなくてはならなくなりました。一人一人がお金を稼いでそれが税収となって町に還元されていい町になる、それが本当の復興なのではないかと考え、なりわいづくりをしようと思いました。なぜ林業だったかというと、1つ目の理由は三陸の山に魅了されたから、2つ目はちょうど台風が岩手県に初上陸するというときで、倒木などで集落が孤立してしまう事態になり、林業の大切さに気がついたからです。三陸は、山と海との距離が近く、流域内で降った雨が川を伝わって海に流れることで、土砂が海に流れて漁場を荒らすことも問題です。山をきちんと整備して守ることが、人々の安全と漁業者を守ることにつながると思いました。そこで、環境保全型の自伐型林業に取り組み、2016年に団体を立ち上げ、地域の方に山林の管理を任せてもらって林業をしつつ、何年か前から自分で山林を取得・購入し、地域の山の維持管理をしています。養蜂もしていますし、昨年(2021年)からは原木しいたけの生産者になりました。仕事、休み、遊びの区別なく、楽しみながら日々、暮らしています。

宮田香司さん:私も移住者の一人です。福井県で、農業、馬などの動物の飼育、自伐型林業をして生活しています。「食糧自給率を上げたい」と農業をしていましたが、 2011年に起こった東日本大震災によって、エネルギー自給にも取り組まないといけないと実感しました。東北で4年間ボランティア活動をし、地元に戻って取り組んだのは、ソーラーの蓄電によって自動散水するシステム作りです。その後、家に薪ストーブを導入したことが、自ら山に入って木を切るきっかけになりました。
 2016年から山に細い道を入れていくようになりました。自伐型林業の成功の秘訣は、やはり道づくりです。小型ユンボに乗って、2m幅の道を作ります。これが本当に楽しいんです。道があれば、トラックで簡単に山にアクセスでき、山の資源を活用することができます。そうやって切り出した木を薪にするイベントを開催したら、子どもから大人までむちゃくちゃ人が来て、びっくりしました。実は、私にとっては薪を割ってもらうと助かるのでイベントにしたわけですが、このイベントから林業をやりたいと言う女性が2人も現れ、実際に福井県で林業をしています。他にも、木を使って山に展望デッキを作るという遊びも生まれました。このときは、製材にお金がとてもかかって困ったので、次からは何とかして自分たちで製材をしたいと思い、今では製材機を買って技術も身につけました。アイデア次第で、山の資源はどんなふうにでもなります。林業に可能性を感じています。

──社会福祉法人「福祉楽団」も、林業に取り組んでいるそうですね。

照井大さん:2001年に、福祉法人「福祉楽団」は設立されました。私たちは、千葉県の過疎地の地域問題を解決するために介護事業をしています。その地域には、障害のある人たちもいます。そういう方たちが働いて得られる給料が、平均月に1万円くらいだという事実を知った当団体の理事長が、「この金額では社会で自立した生活をおくれない」と、どうにか地域の障害のある方の働き先を作りたいと言い、障害者の就労継続支援事業に取り組むことになりました。就労継続支援には、A型とB型という働き方あるのですが、2012年からA型の雇用契約を結ぶという雇用方法で、障害のある方を雇っています。豚肉の生肉販売としゃぶしゃぶやハンバーグを提供するレストラン事業を行っていて、就労者はレストランの接客も行います。2018年には、より障害の重い方たちも受け入れられるように、就労継続支援B型の事業を開始しました。畑を借りてサツマイモを育てたり、薪割りをしたりしています。畑の管理を任されていたことから、「それなら森も」と17名の地域の人から任され、今では約30haの森を管理しています。危険と思われがちな林業も、丁寧に作業を分解することで、障害もある方の仕事になります。利用者の個性を考えながら、刈り払い機などで雑草の処理、木材運搬、玉切り、薪造り、木工作業をしてもらいます。過疎、担い手不足、耕作放棄地など、地域の課題に向き合った結果、今の福祉事業の形になりました。

──森林環境税も、地方での森を守る人たちを支え、担い手の移住促進になる起爆剤となるといいですね。

宮田さん:森林環境税は、地域の実情に応じて幅広く活用できます。都市部の会社員で、林業を学びたいなどの、居住者でない人材の林業研修というアクションにも予算がつけられます。すでに福井県と福井市では、森林環境譲与税を活用して、自伐型林業者の担い手の育成をしています。大型機械を持たない、小さな林業者の活動に予算があることは貴重で、多くの人が参加しています。さらに今後は、森林環境税を活用して、一から自伐型林業を始めたい人を育成するカリキュラム式の学校を作る予定です。実際、自伐型林業に取り組んでいる人は、移住者も多いので、森林環境税の使い方の1つとして、自伐型林業者の育成を考えてほしいですね。

天野さん:小さな林業をする私たち団体への国からの補助は薄く、このまま活動を続けられるのかと不安に思うこともありましたが、地域の方たちから山の管理を任せていただけるようになり、「あなたのところの木が欲しい」と言ってもらえるようになると、木や森が生み出す可能性が広がっていると感じます。地域の森が元気になり、移住定住者が増えていくと、林業に対する地域や自治体の理解がもっと深まると思います。私たちがそのモデルとなって、自伐型林業を始める人が増え、まちおこしになればいいですね。

中西悦子さん:パタゴニア日本支社の中西です。弊社はサーフィン・スノーボードなど、人力で行うアウトドアスポーツのウェアを製造・販売している会社です。草の根の環境保全活動を支援しており、これまでに150億円以上、1,000グループ以上に寄付をしています。現在、自伐型林業推進協会も環境保全型の林業であるとして、支援、協働しています。
 他にも、「環境インターンシップ・プログラム」という会社の制度があります。これは、社員のスキルを環境団体や社会に提供するというもので、社員が個人的に応援したいと思う活動に、2ヶ月間の有給休暇を取って参加できる仕組みです。たとえば、ダイビングが得意な社員は、沖縄の辺野古で藻場の生態・環境チェックをし、クライミングが得意な社員は、岩場を登ってウミドリの動画を撮影し、その生態研究のためにスキルを役立たせています。
 自伐型林業もそうですが、スノーボードなどアウトドアを楽しむ方たちは、森や海という自然から恩恵を受けていると感じている人たちです。そんな人たちが先頭になって、自然を守る行動を起こすと説得力があります。

金清典広さん:1975年創業の、高野ランドスケーププランニング株式会社の金清です。都市公園の設計をなりわいにしています。創業当初の40年前の日本では、「公園の面積を増やせ」と、「1人につき10平米の緑地を作る」という流れがありました。私たちはそんな時代から、「森を改変するのではなく、そこにある価値を生かす」ことを実践してきました。十勝で400haの公園の設計を任されたときは、「森に何も持ち込まない」という公園づくりを実践しました。ほったらかしで、笹で覆われていた大地でしたが、笹を毎年刈ると、元からあった植物が顔を出し、様々な花を咲かせるようになりました。小川も見えてきました。最近では、切った木を使ってテーブルを作り、森で結婚式をしました。
 森との関わりは、過疎地でも都市部でもこれからどんどん必要になってきます。「アーバンフォレスト」という言葉も普及してきましたが、欧米では都市にある樹木や森林が、温暖化防止や災害の防止、野生動物の住処になるなど、森林機能が注目されており、これをどう維持するかが都市政策の課題となっています。森との関わりを考えることは、もはや他人事ではないのです。

──整備されず、放置された森林が全国各地で見られます。一方で、記事に登場した人たちのように、森林の価値にいち早く気付いた人たちは、環境を保全する仕事をし、自然とともに暮らすライフスタイルを確立しつつあります。
 あわせて、気候変動の影響で、私たちの暮らしを脅かす土砂崩れや河川の氾濫が起こっています。災害の予防のためにも、森林を整備する人材の確保は喫緊の課題となるでしょう。新しく導入される森林環境税や森林の使い道について、どうアプローチできるのか。さまざまな取り組みをヒントに、企業のSDGs対応のひとつとして森を活用した活動を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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7月22日に行われた自伐フォーラム。会場参加のほか有料オンラインを合わせて約280人の参加があり関心の高さが窺えた

森林環境税・ 森林環境譲与税とは:「森林環境税」は、令和6(2024)年度から個人住民税均等割の枠組みを用いて、国税として1人年額1,000円を市町村が賦課徴収することとされています。また、「森林環境譲与税」は、交付税及び譲与税配付金特別会計における借入金を原資に、令和元(2019)年度から譲与が開始され、市町村や都道府県に対して、私有林人工林面積、林業就業者数及び人口による客観的な基準で按分して譲与されています。
林野庁HP https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/kankyouzei/kankyouzei_jouyozei.html

(文/平井明日菜 写真/自伐型林業推進協会・本人提供)


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