税務用語辞典


  • 令和3年度 税制改正対応版※令和3年4月1日現在の法令等によっています。

事業所得の計算で認められる特殊な経費

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1 貸倒損失

 事業の遂行上生じた売掛金、貸付金などの債権の貸倒れによる損失は、損失の生じた年分の必要経費となる(法51②)。

 <貸倒れの事例>

 次の事実が発生した場合には、次のそれぞれに掲げる金額が、貸倒れとして、その事実の発生した年分の損失の金額とされる(基通51-11、12、13)。

  • ○イ 債権について会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生計画の認可の決定、民事再生法の規定による再生計画の認可の決定、会社法の規定による特別清算に係る協定の認可の決定あるいは債権者集会等の協議決定でその全部又は一部が切り捨てられた場合のその金額又は債務超過状態が相当期間継続し、債権の弁済が受けられないと認められる場合に債務者に書面で通知した債務免除額
  • ○ロ 貸金等についてその債務者の資産の状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかな場合のその貸金額
  • ○ハ 債務者との取引停止時と最後の弁済期又は最後の弁済の時とのうち最も遅い時以後1年以上経過した場合又は同一地域の債務者について有する売掛金等の総額がその取立ての費用に満たない場合においてその債務者が支払の督促に応じないときは、その債権額から備忘価額を控除した残額

2 貸倒引当金

  • (1) 不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を営む居住者が、更生計画の認可の決定に基づいてその有する売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる金銭債権でその事業の遂行上生じたもの(以下「貸金等」という。)の弁済を猶予され、又は賦払により弁済される場合等、次に掲げる場合において、その一部につき貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれる貸金等(その貸金等に係る債務者に対する他の貸金等がある場合には、当該他の貸金等を含む。以下「個別評価貸金等」という。)のその損失の見込額として、各年において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、次に掲げる場合のそれぞれ次の金額を限度として、その者のその年分に係る不動産所得、事業所得又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入される(法52①、令144規3535の2)。
    • ① 居住者がその年12月31日において有する個別評価貸金等につき、その個別評価貸金等に係る債務者について生じた次に掲げる事由に基づいてその弁済を猶予され、又は賦払により弁済される場合 その個別評価貸金等の額のうち当該事由が生じた日の属する年の翌年1月1日から5年を経過する日までに弁済されることとなっている金額以外の金額(担保権の実行その他によりその取立て又は弁済(以下「取立て等」という。)の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)
      • イ 更生計画の認可の決定
      • ロ 再生計画の認可の決定
      • ハ 特別清算に係る協定の認可の決定
      • ニ 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるもの
        • (イ) 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
        • (ロ) 行政機関、金融機関その他第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容が(イ)に準ずるもの
    • ② 居住者がその年12月31日において有する個別評価貸金等に係る債務者につき、債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由が生じていることにより、その個別評価貸金等の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められる場合 その一部の金額に相当する金額
    • ③ 居住者がその年12月31日において有する個別評価貸金等に係る債務者につき次に掲げる事由が生じている場合 その個別評価貸金等の額の100分の50に相当する金額
      • イ 更生手続開始の申立て
      • ロ 再生手続開始の申立て
      • ハ 破産手続開始の申立て
      • ニ 特別清算開始の申立て
      • ホ 手形交換所又は電子債権記録機関による取引停止処分
    • ④ 居住者がその年12月31日において有する外国の政府、中央銀行又は地方公共団体に対する個別評価貸金等につき、これらの者の長期にわたる債務の履行遅滞によりその経済的な価値が著しく減少し、かつ、その弁済を受けることが著しく困難であると認められる事由が生じている場合 その個別評価貸金等の額の100分の50に相当する金額
  • (2) 青色申告書を提出する者で事業所得を生ずべき事業を営むものが、その有する売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権でその事業の遂行上生じたもの(個別評価貸金等を除く。以下「一括評価貸金」という。)の貸倒れによる損失の見込額として、各年において貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、次の算式によって計算した金額を限度として、その者のその年分に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入される(法52②、令145)。
    • ① 金融業以外の事業 年末における一括評価貸金の合計額×551,000
    • ② 金融業  年末における一括評価貸金の合計額×331,000
  • (3) 上記の(1)又は(2)により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額は、必ずその翌年の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入しなければならない(法52③)。
  • (4) 上記の(1)及び(2)の適用を受けようとする場合には、確定申告書に貸倒引当金に繰り入れた金額の必要経費ヘの算入に関する明細を記載しなければならない(法52④⑤)。

備考

③④については、担保権の実行や保証債務の履行等により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額が除かれる。

貸金のうち、その債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられないものは、貸金から除外される。この場合、その者が平成27年1月1日以後引き続き事業を営んでいるときは、平成27年以後の各年の年末における貸金の額に次の割合を乗じて計算した額をもって実質的に債権とみられない額とすることができる(令145②)。

3 退職給与引当金(青色申告の特典)

  • ○イ 設定が認められる者
      使用人の退職給与に充てるため、一定の額を引き当てたときは、申告書への明細の記載を要件として、必要経費に算入する(法54)。この退職給与引当金勘定への繰入額を必要経費に算入することができる者は、
    • a 労働協約により定められている退職給与規程
    • b 行政官庁に届け出た就業規則により定められている退職給与規程
    • c 税務署長にあらかじめ届け出た退職給与規程

     のいずれかを有する青色申告者に限られる。
  • ○ロ 繰入限度額(令154
      その年の退職給与引当金勘定に繰り入れる金額は次の算式のうちもっとも低い金額を限度とする。
    • a〔期末退職給与の要支給額〕-〔前年末から引き続き在職する全使用人の前年末における退職給与の要支給額〕
    • b〔期末退職給与の要支給額〕×(20/100)-〔年末における前年から繰り越された退職給与引当金の金額〕
    • c〔年末現在に在職する全使用人に対するその年中の給与総額〕×(6/100)

     ただし、労働協約による退職給与規程(協約以外の退職給与規程でも労働組合の意見表明、労働者への周知等が行われているものを含む。)がある者については、cは適用されない。

備考

退職金を支払った場合の経理……退職金を支払った場合には、退職給与引当金勘定の金額のうち、その退職者が退職した年の前年12月31日において自己の都合により退職するものと仮定した場合に支払われるべき退職金に相当する金額を取り崩して収入金額に算入し、一方、支払った退職金はその金額を必要経費に算入する。

「期末退職給与の要支給額」とはその年末において在職する全使用人(生計を一にする親族は除く。)が自己の都合により退職するものと仮定した場合に、同日現在において定められている退職給与規程により計算した退職給与の額の合計額である。

4 青色申告特別控除

 事業所得又は不動産所得を生ずべき事業を営む青色申告者(現金主義適用者は除く。)で、正規の簿記の原則に従って取引の記録をしている者については、その者の不動産所得の金額又は事業所得の金額から、

  • イ 55万円。ただし、次に掲げる要件のいずれかを満たすものについては、65万円。
    • (イ) その年分の事業に係る一定の帳簿に係る電磁的記録等の備付け及び保存が一定の要件を満たしていること。
    • (ロ) その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表及び損益計算書等の提出を、その提出期限までに電子情報処理組織(e-Tax)を使用して行うこと。
  • ロ 不動産所得の金額又は事業所得の金額の合計額

のうち、いずれか低い金額を不動産所得の金額又は事業所得の金額から順次控除する(措法25の2③~⑤)。

 上記以外の青色申告者については、その者の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額から、

  • イ 10万円
  • ロ 不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の合計額

のうち、いずれか低い金額を不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額から順次控除する(措法25の2①②)。

備考

55万円又は65万円(左記(ロ)の要件を満たす者を除く。)の特別控除は、青色申告書を提出期限内に提出する等の要件を満たす必要がある(措法25の2⑥)。

5 特定の損失等に充てるための負担金の必要経費算入

 居住者が、一定の公益法人の業務に係る資金で国税庁長官が指定したものに充てるために支出した負担金は、事業所得の計算上必要経費に算入される(令167の2)。

6 その他の経費

  • a 確定給付企業年金規約等に基づく掛金等の必要経費算入(令64②)
  • b 中小企業者・農林漁業者の債務保証、中小企業倒産防止共済事業、公害の発生による損失補填等のための一定の基金に対する負担金等の必要経費算入(措法28
  • c 中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例(措法28の2
  • d 債務処理計画に基づく減価償却資産等の損失の必要経費算入の特例(措法28の2の2

 なお、青色申告者については、上記のほか、引当金、準備金及び特別償却等の特典がある。詳細は304頁参照。

備考

cの特例は、当該個人のその業務の用に供した年分における少額減価償却資産の取得価額の合計額が300万円を超えるときは、その取得価額の合計額のうち300万円に達するまでの少額減価償却資産の取得価額の合計額を限度とする(措法28の2)。

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