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[全文公開] 「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)( 所得税基本通達59-6 《株式等を贈与等した場合の「その時における価額」》)に対する意見公募手続の実施について(抄)(2年6月30日)

( 50頁)

〔国税庁・令和2年6月30日〕

【編注:一部改正(案)の概要を抜粋して掲載しています。】

(別添)

「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)の概要

1 改正の背景

所得税法第59条 第1項では,「贈与(法人に対するものに限る。),相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)又は著しく低い価額の対価による譲渡(法人に対するものに限る。)により居住者の有する譲渡所得の基因となる資産等の移転があった場合,その者の譲渡所得等の金額の計算については,その事由が生じた時に, その時における価額 に相当する金額により,その資産の譲渡があったものとみなす。」こととされています。

また,昭和45年7月1日付直審(所)30「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)(以下「所基通」といいます。)59-6《株式等を贈与等した場合の「その時における価額」》(以下「本件通達」といいます。)では, 所得税法第59条 第1項の規定の適用に当たって,譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利,株式の割当てを受ける権利,新株予約権(新投資口予約権を含みます。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含みます。)である場合の同項に規定する「 その時における価額 」とは, 所基通23~35共-9 に準じて算定した価額によることとし,この場合, 所基通23~35共-9 の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」については,原則として,一定の条件の下,昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)(以下「評基通」といいます。)178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した価額とすることとしています。

そして,本件通達の(1)では, 評基通188 の(1)に定める「同族株主」に該当するかどうかは,株式を譲渡又は贈与した個人の当該譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定することとする条件を定め,当該株式を譲渡又は贈与した個人である株主が譲渡又は贈与直前において少数株主に該当する場合に,取引相場のない株式の譲渡又は贈与の時における価額をいわゆる配当還元方式 (注) により算定することと取り扱っています。

(注)  相続税等について財産の評価方法等を定めた評基通では,取引相場のない株式の価額について,原則的な評価方法を定める一方,会社の事業経営への影響力に乏しい少数株主が取得した株式の場合に用いる例外的な評価方法(配当還元方式)を定めています。 評基通188 は「同族株主以外の株主等が取得した株式」の範囲を定め,当該株式に該当するものについて, 評基通188-2 の定めにより配当還元方式によって算定することとしています。

今般,取引相場のない株式の譲渡の時における価額を争点として,本件通達の(1)の条件に関し,譲渡所得に対する課税の場面において配当還元方式を用いることとなるのは,譲渡人である株主が少数株主に該当する場合(国側の主張)なのか,譲受人である株主が少数株主に該当する場合(納税者側の主張)なのかが争われた事件に対する最高裁判決(令和2年3月24日付最高裁第三小法廷判決)がありました。この判決の中で最高裁は, 本件通達の定めは,譲渡所得に対する課税と相続税等との性質の差異に応じた取扱いをすることとし,少数株主に該当するか否かについても当該株式を譲渡した株主について判断すべきことをいう趣旨のものということができる と判断し,国側の主張が認められたところです 注)

しかしながら,当該最高裁判決に付された裁判官補足意見において,本件通達の作成手法については,分かりやすさという観点から改善されることが望ましい等の指摘がなされましたので,この指摘を踏まえ,本件通達の(1)の条件に係る現行の取扱いがより明確になるよう,本件通達の改正を行うこととします。

(注)  当該最高裁判決においては,株式の譲受人である株主が少数株主に該当することを理由として,譲渡人が譲渡した株式につき配当還元方式により算定した額が株式の譲渡の時における価額であるとした原審(平成30年7月19日付東京高裁判決)の判断部分(国側敗訴部分)が破棄され,原審に差し戻されました。

2 改正案の内容

本件通達の(1)の条件について,譲渡又は贈与した株式の価額について株式を譲渡又は贈与した個人である株主が譲渡又は贈与直前において少数株主に該当する場合に 評基通188 等の定めの例により算定するという現行の取扱いを分かりやすく表現するため,①「取得した株式」と定めている部分について「譲渡又は贈与した株式」と読み替えるなどの必要な読替えを行うとともに,②読替え後の 評基通188 等の定めの例により算定するかどうかを譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定することを明確化する改正を行うほか,所要の整備を行います。

なお,本件通達の改正は,これまでの取扱いを変更するものではありません。

3 新旧対照表

改正案に係る新旧対照表は,別紙のとおりです。

別 紙

新  旧  対  照  表  (案)

「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)

(注)アンダーラインを付した箇所が改正部分である。

改 正 後 改 正 前

法第59条 《贈与等の場合の

譲渡所得等の特例》関係 

(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)

59-6   法第59条 第1項の規定の適用に当たって,譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利,株式の割当てを受ける権利,新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」 ,23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合,23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」 については ,原則として,次によることを条件に,昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した価額とする。

法第59条 《贈与等の場合の

譲渡所得等の特例》関係 

(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)

59-6   法第59条 第1項の規定の適用に当たって,譲渡所得の基因となる資産が株式(株主又は投資主となる権利,株式の割当てを受ける権利,新株予約権(新投資口予約権を含む。以下この項において同じ。)及び新株予約権の割当てを受ける権利を含む。以下この項において同じ。)である場合の同項に規定する「その時における価額」 とは ,23~35共-9に準じて算定した価額による。この場合,23~35共-9の(4)ニに定める「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」 とは ,原則として,次によることを条件に,昭和39年4月25日付直資56・直審(資)17「財産評価基本通達」(法令解釈通達)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例により算定した価額とする。

(1) 財産評価基本通達 178,188,188-6,189-2,189-3及び189-4中「取得した株式」とあるのは「譲渡又は贈与した株式」と,同通達185, 189-2,189-3及び189-4中「株式の取得者」とあるのは「株式を譲渡又は贈与した個人」と,同通達188中「株式取得後」とあるのは「株式の譲渡又は贈与直前」とそれぞれ読み替えるほか,読み替えた後の同通達185ただし書,189-2,189-3又は189-4において株式を譲渡又は贈与した個人とその同族関係者の有する議決権の合計数が評価する会社の議決権総数の50%以下である場合に該当するかどうか及び読み替えた後の同通達188の (1) から (4) までに定める株式に該当するかどうかは,株式の 譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

(1) 財産評価基本通達 188の (1) に定める「同族株主」に該当するかどうかは,株式を譲渡又は贈与した個人の当該 譲渡又は贈与直前の議決権の数により判定すること。

(2) 当該株式の価額につき 財産評価基本通達179 の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において, 当該 株式を譲渡又は贈与した個人が 当該譲渡又は贈与直前に 当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは,当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

(2) 当該株式の価額につき 財産評価基本通達179 の例により算定する場合(同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において,株式を譲渡又は贈与した個人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは,当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

(3) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは, 財産評価基本通達185 の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり,これらの資産については,当該譲渡又は贈与の時における価額によること。

(3) 同左

(4)  財産評価基本通達185 の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり, 同通達186-2 により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

(4) 同左