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[全文公開] デリバティブの損失と繰越控除

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デリバティブ取引は,株式などの金融商品のリスクヘッジを目的に行われるとはいえ,場合によっては損失を被ることもあるだろう。

金融商品取引法上の規制対象となる一定のデリバティブ取引等による所得は,雑所得等として申告分離課税となるが,損失が生じてしまった場合,損益通算できる範囲が限られている( 措法41の14 ①, 措令26の23 ①)。給与所得など他の所得はもちろん,雑所得であってもデリバティブ取引等以外の所得とは相殺ができない。

一方,この損失は,3年間の繰越しが可能で,差金等決済で利益が生じた年において古いものから控除することができる( 措法41の15措令26の26 )。

例えば,令和2年中,デリバティブ取引Aで雑所得▲200万円,デリバティブ取引Bで雑所得350万円が生じているケースを想定する。まず,Aの損失とBの所得は相殺できるので,令和2年分の所得は150(=350-200)万円となる。ここに繰越損失額が,平成29年に▲70万円,平成30年に▲80万円,令和元年に▲20万円とあれば,最も古い平成29年分から控除していき,平成30年分を控除した時点で0(=150万-70万-80万)円となるので,令和元年分は本年分で控除できず,翌年以降に再度繰り越すことになる。

繰越控除制度の適用を受けるためには,明細書など一定の書類を添付して確定申告をする必要がある。ここで注意したいのが,確定申告書の提出は毎年行わなければならない点だ( 措法41の15 ③等)。その年の損失は繰り越す必要がないといって確定申告をしないでいると,過去に繰り越した損失までもが繰越控除の対象外となってしまう。

上記の例で,平成30年に確定申告をしなかったとすると,▲80万円のみでなく平成29年の▲70万円も繰り越されない。