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[全文公開] 形式上の貸倒れと単発の取引

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税務上の貸倒損失として計上できる基準のうち,「形式上の貸倒れ」( 法基通9-6-3 )は,債務者の資産状況等悪化による取引停止時から1年以上経過した場合などに適用できる基準のこと。ここでの取引は,“継続的な取引”が対象となるが,単発の取引でもこの基準を適用できるケースがある。

「形式上の貸倒れ」は,原則として,同一人に対し通常継続して行うことのない取引,例えば,偶発的に生じた不動産取引に係る売掛金等は“継続的な取引”に該当しないため,1年以上回収できなくても適用することができない。

この基準で対象となる商品販売等の営業活動で発生した売掛債権(貸付金等を除く)は,一般的な貸付金等とは異なり履行遅滞になって直ちに債権確保手続きをとることが困難などの理由で,外形基準で貸倒損失の計上することを認めている。

例えば,一般消費者向けの通信販売(ECサイト,テレビ通販等)での取引は,顧客ごとに電話等による督促等以上の手段を直ちに行い回収することが困難であろう。この場合,継続的な取引を期待して顧客の情報を取引先台帳等で管理していれば,結果的に1回限りの取引となったとしても,例外的に“継続的な取引”に該当するとしている(国税庁・質疑応答事例『通信販売により生じた売掛債権の貸倒れ』)。

取引停止時から1年以上の経過を判定する起算日は,取引が複数回に及ぶ場合,取引停止時又は最後の弁済期のいずれか遅い日となるが( 法基通9-6-3 (1)),上記例のように単発の取引の場合は,その取引に係る弁済期となるようだ。つまり,貸倒損失として計上できるのは,弁済期から1年を経過した日の属する事業年度となる。

なお,「形式上の貸倒れ」には,損金経理と備忘価額を付すことが求められる( №3625 ・46頁)。