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[全文公開] 税務に必読! イチから学ぶ地方税の基礎 第1回 会社と地方税

税理士法人髙野総合会計事務所 税理士 安藤 大樹

はじめに

会社が納付する税金としてイメージするものは、一般的に「法人税」や「消費税」といった税金が聞き慣れたものかと思います。これらの税金は、国の財政に充てられる「国税」といい、その一方で、地方自治体の財政に充てられる税金を「地方税」といいます。地方税は国税と違い、自治体ごとに課される税金の種類や課税のルールが異なるといった特徴があります。

会社経理における実務上は、法人税の申告書を作成すると自動的に地方税の申告書も作成されていたり、市町村などの自治体から毎年届く納税通知書の記載どおりに固定資産税を納付したりと、日々何となく申告書の提出や税金の納付をしているものの、地方税の制度そのものについてはよく分からない、といった経験をお持ちの方もいるかもしれません。

会社の地方税に関する理解を深めるため、これから全12回にわたり、地方税の制度概要、税額計算や申告手続き、納税の方法について紹介をさせて頂きます。

1 会社業務に関わる地方税の種類

地方税は、地方税法の法令を基礎として、自治体ごとに税の種類や課税方法が条例によって定められています。会社業務における地方税は多岐に及びますが、主な税金の種類としては下記の内容があげられます。

地方税の種類 内容 主な勘定
科目
法人住民税 道府県民税、市町村民税の法人税割及び均等割 法人税等
法人事業税 所得割及び特別法人事業税 法人税等
外形標準課税による付加価値割や資本割 租税公課
事業所税 事業所税の資産割及び従業者割 租税公課
固定資産税 自治体から届く納付税額の決定通知に基づき納付する固定資産税及び償却資産税 租税公課
個人住民税 従業員の給与から特別徴収した住民税 預り金
その他 自動車税、重量税、ゴルフ場利用税、入湯税 等 租税公課

2 年間税務スケジュール

会社の地方税については、税金の種類ごとに申告書の提出や納付の時期が異なります。

法人住民税、法人事業税及び事業所税は、事業年度を通じて会社が自ら計算した税額を申告書として提出し納税を行う「申告納税方式」が採用されています。固定資産税や個人住民税は、毎年1月に所定の書類を提出したうえで、6月に自治体から納付税額の決定通知を受けてその通知内容をもとに納税を行う「賦課課税方式」が採用されています。

以下は、東京都に所在する3月決算の会社を例にした年間税務スケジュールとなります。あくまで一例であり、自治体や会社の手続きの時期により、自治体からの決定通知や税金の納付期限が異なる場合がありますのでご留意ください。

年度 申告手続き 税金の納付期限(注) 決定通知
当年度 4月
5月 法人住民税・法人事業税
事業所税
法人住民税・法人事業税
事業所税
6月 法人住民税・法人事業税
※1月延長の場合
固定資産税(第1期) 固定資産税
個人住民税
7月 法人住民税・法人事業税
※2月延長の場合
8月
9月 固定資産税(第2期)
10月
11月 住民税・事業税
※予定申告
法人住民税・法人事業税
※予定納税
12月 固定資産税(第3期)
1月 償却資産申告書
給与支払報告書
2月 固定資産税(第4期)
3月
翌年度 4月
5月 法人住民税・法人事業税
事業所税
法人住民税・法人事業税
事業所税
6月 法人住民税・法人事業税
※1月延長の場合
固定資産税(第1期) 固定資産税
個人住民税
7月 法人住民税・法人事業税
※2月延長の場合

(注)個人住民税の特別徴収については、毎年6月の納付税額の決定通知に基づき、6月から翌年5月までの1年間、毎月の給与から差し引いた金額を翌月10日に納税します。

3 各税目の概要

(1) 法人住民税

法人住民税は、会社の決算時において国税である法人税の確定申告とともに確定申告を行う地方税のひとつです。そのため、一般的には法人税の納付期限や確定申告書の提出期限と同じスケジュールで地方税の手続きも行うこととなります。

法人住民税は、会社の毎期の法人税額を課税標準として税額計算を行う「法人税割」と、期末の資本金等の額を課税標準として税額計算を行う「均等割」の2つの合計により税額を計算することとなります。

また、申告や納付に当たっては、会社の事業所が東京都特別区内に所在する場合を除いて、道府県民税と市町村民税の2か所の申告納付が必要となります。また、複数の所在地に事業所を設けている会社については、法人税割の課税標準を各事業所の所在地ごとに按分して税額計算を行う「分割基準」が適用されます。

(2) 法人事業税

法人事業税は、(1)の法人住民税と同じく、法人税の確定申告と同じスケジュールで納付や申告の手続きを行うこととなります。法人住民税のうち都民税・道府県民税とセットで申告や納税の手続きを行うこととなっており、法人住民税と法人事業税の2つを総称して「地方法人二税」とも言われます。

法人事業税は一般的に、法人の所得金額を課税標準として税額計算を行う「所得割」と、これに加えて、その事業税の額を課税標準として税額計算を行う「地方法人特別税」の2つの合計が法人事業税の税額となります。なお、法人住民税と同様に、複数の所在地に事務所を設けている会社には「分割基準」が適用されます。

そのほか、特定の法人(期末資本金が1億円超の大法人)のみに課税される外形標準課税という制度があり、所得割に加えて「付加価値割」と「資本割」という2種類の法人事業税が課されるケースもあります。

(3) 事業所税

事業所税は、東京都特別区や政令指定都市をはじめとした大都市地域等の都市環境整備に充てるための目的税となります。そのため、全ての市町村で事業所税が課されるものではなく、指定都市で一定規模の事業を営んでいる場合に限り、申告納税の義務があります。

事業所税は会社の事業年度を算定期間として申告納税をすることとなりますが、税額計算に当たっては「資産割」と「従業者割」の2種類の計算方法で構成されており、以下の計算過程により算定した税額の合計を申告納付することとなります。

資産割 = 事業所の床面積の合計 × 600円/㎡

従業者割 = 期中の従業員等への給与支給総額 × 0.25%


(4) 固定資産税

固定資産税は、土地、家屋及び償却資産という3つの資産の所有者に対して課税される財産税です。

土地、家屋に対する固定資産税は、不動産の登記情報に基づいて自治体が管理する「土地課税台帳等」、「家屋課税台帳等」に基づき、納税者に毎年納付税額の決定通知が行われることとなります。

その一方で、償却資産に対する固定資産税(以下、「償却資産税」といいます。)は、事業用資産として所有している事業所の内装や備品、機械装置などに対して課税がされるものです。しかしながら、土地や家屋と違い所有権の登記情報が存在しないことからも、事業者が毎年1月1日時点に所有している償却資産の情報を自治体に申告した上で、自治体から納付税額の決定通知を受けることとなります。

(5) 個人住民税

個人の住民税の納付方法には、「特別徴収」と「普通徴収」の2つの方法があります。会社に所属している従業員等の給与所得者は、自身で住民税を納付する必要はなく、会社が従業員等に支給する毎月の給与から個人住民税を差し引かれます。会社はその差し引いた個人住民税を従業員等の代わりに毎月納付することになり、この仕組みのことを「特別徴収」といいます。

このように、個人住民税はあくまで個人の税負担であり、会社自体が税負担をするものではありません。毎年6月に従業員の個人住民税について納付税額の決定通知が会社に届き、その通知に基づいて各従業員等の毎月の給与から個人住民税を差し引いて会社が納付することとなります。

その一方で、「普通徴収」とは、個人宛に住民税の納付税額の決定通知が届き、その通知に基づき年4回に分けて個人住民税を自身で納付することとなります。

なお、会社に所属している従業員等でも普通徴収による住民税の納付方法を選択することもできます。その場合には、従業員等が自身で納税を行うこととなりますので、会社が個人に代わり納付の手続きをする必要はありません。


次回は、法人住民税について解説いたします。