概要
<通達本文>
(1) 企業会計上の利益は,いわゆる継続企業の前提に立って事業活動から生ずる総収益と総費用とを各会計期間ごとに対応させ,その差額概念として測定されることになっているが,法人税における課税所得も本質的にはこれと同じ概念であり,かつ,同様の手段によって測定されることになっている。
このような期間損益計算の下においては,収益や費用がいずれの会計期間に属するかということが最も重要な問題になるが,この収益・費用の期間帰属の問題は,実は収益や費用をどのような基準で確認するかの問題にほかならない。
このような収益・費用確認の原則としては,いわゆる「発生主義原則」が広く企業会計に採用されるに至っていることは既に周知の事実である。
発生主義は,各会計期間における収益・費用の適正な割当ての基準として,当期で「発生」した収益・費用は,現金収支の有無にかかわりなく当期の期間損益として認識するという考え方であって,現金収支の事実をもってはじめて会計的事実を確認する,いわゆる「現金主義原則」の思想と対立するものであるが,これが現在の健全な会計慣行の中心的思想として一般に是認され,税法における課税所得の計算においてもまた基本的前提とされているのである。
(2) このように企業会計も税法も等しく収益・費用の期間的割当てのための基準として「発生主義」の立場を採っているのであるが,企業の損益は発生主義の基準によってのみ確定されるわけではない。「発生」の事実は損益取引を会計帳簿に記録するための一つの尺度に過ぎず,一会計期間の利益又は所得を決定するためには,発生主義とともに実現主義又は収益費用対応の原則等の諸基準を併せ適用することとされてきた。
(3) ところで,企業会計基準委員会は,平成30年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下この章において「収益認識基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下この章において「収益認識基準適用指針」という。)を公表し,監査対象法人にあっては,原則として,令和3年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から収益認識基準を強制適用することとされている。
この収益認識基準の導入を契機に,平成30年度の税制改正において,収益の計上時期及び計上額についての通則的な規定として法人税法第22条の2《収益の額》が設けられるとともに返品調整引当金制度が廃止されるなどの所要の改正が行われている。
また,収益認識基準に基づく会計処理は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当し得ると考えられるものの,法人税における公平な所得計算という要請の中で許容できる処理の範囲を画すための基準等については,本章において明らかにされている。
なお,中小企業(監査対象法人以外)については,引き続き企業会計原則等に則した会計処理も可能とされており,当該会計処理が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従ったものについては,従前の取扱いによることも可能である。
(参考) 収益認識基準の導入を契機とした平成30年度の税制改正と法人税基本通達の見直しについて
(1) 我が国においては,企業会計原則の損益計算書原則に,「売上高は,実現主義の原則に従い,商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」とされているものの,収益認識に関する包括的な会計基準はこれまで開発されていなかった。一方,国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)は,共同して収益認識に関する包括的な会計基準の開発を行い,平成26年5月に「顧客との契約から生じる収益」(IASBにおいてはIFRS第15号(平成30年1月1日以後開始事業年度から強制適用),FASBにおいてはTopic606(平成29年12月15日以後開始事業年度から強制適用))が公表された。
これらの状況を踏まえ,企業会計基準委員会は我が国における収益認識に関する包括的な会計基準の開発に着手し,平成30年3月30日に企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」を公表した。
収益認識基準は,令和3年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用することとされている(収益認識基準81)。ただし,平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができることとされたほか,平成30年12月31日から平成31年3月30日までの間に終了する連結会計年度及び事業年度からも適用することができることとされている(収益認識基準82・83)。
(注) 中小企業(監査対象法人以外)については,引き続き企業会計原則等に則った会計処理も可能とされている(『「収益認識に関する会計基準」等の公表』2頁脚注1(平成30年3月30日企業会計基準委員会))。
なお,収益認識基準は,顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用される。ただし,金融商品に係る取引等の一定の取引については適用されない(収益認識基準3)。
(2) 収益認識基準の導入に伴い,平成30年度の税制改正において次の法令改正が行われた。
① 内国法人の資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供(以下「資産の販売等」という。)に係る収益の額は,別段の定めがあるものを除き,その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入することが明確化された(法22の2①)。
② 内国法人が,資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ってその資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の上記①の日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には,上記①にかかわらず,その資産の販売等に係る収益の額は,別段の定めがあるものを除き,その事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入することが明確化された(法22の2②)。
③ 内国法人の各事業年度の資産の販売等に係る収益の額としてその事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入する金額は,別段の定めがあるものを除き,その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とすることが明確化された。また,この引渡しの時における価額又は通常得べき対価の額は,資産の販売等の対価の額に係る金銭債権の貸倒れが生ずる可能性又は資産の販売等(資産の販売又は譲渡に限る。)に係る資産の買戻しが生ずる可能性がある場合においても,これらの可能性がないものとした場合における価額とされた(法22の2④⑤)。
④ 返品調整引当金制度が廃止された(平成30年度の税制改正前の法53)。
⑤ 長期割賦販売等に係る収益及び費用の帰属事業年度の特例について,対象となる資産の販売等がリース譲渡に限定された(法63)。
(3) 法人税法では,「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,資産の販売……その他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」こととされ(法22②),「当該事業年度の収益の額……は,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする」こととされていた(平成30年度の税制改正前の法22④)。このため,収益の計上については,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うことになるが,会計原則・会計基準・会計慣行には複数の処理があり得ることから,「法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反しない」(最高裁平成5年11月25日第一小法廷判決)処理がどういうものであるかについて,これまで法人税基本通達において収益の計上に関する取扱いが設けられてきた。
収益認識基準の導入を契機に,平成30年度の税制改正において収益の計上時期及び計上額についての通則的な規定として法人税法第22条の2《収益の額》が設けられた。
また,「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」の範囲について過去の判例で断片的に述べられている状況を考慮すれば,新たに導入された収益認識基準に基づく会計処理は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当し得ると考えられるものの,従来の通達では,収益認識基準に基づく会計処理が認められるのか明らかではない部分が多く見られた。
そのため,平成30年度の税制改正に伴い,次のような観点を踏まえ,法人税基本通達の見直しが行われた。
① 収益認識基準は,収益の認識に関する包括的な会計基準であり,業種横断的に画一的に適用されることからすれば,原則として収益認識基準に基づく会計処理は法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反しないものであること。
② 履行義務の充足により収益を認識するという考え方は,法人税法第22条の2第4項において明確化された資産の販売等に係る収益の額はその販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額又はその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額であるとする考え方となじむものであること。
③ 他方で,収益認識会計基準は原則的な取扱いを定めるにとどまり,具体的な適用の場面においては選択し得る会計処理の幅が不明確であるとも考えられることから,公平な所得計算という要請の中で許容できる処理の範囲を画すための客観的な基準を明確化し,会計基準の恣意的な利用を排除する必要があること。
④ 中小企業については,従前より「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従った計算に該当していた企業会計原則等に則した会計処理も引き続き認められることから,従前の取扱いによることも可能とすること。
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