相続人名義の預金と相続財産(1-1-1(8))

※ 本コンテンツは刊行日時点の情報に基づくものです

<問>

過日,相続税の調査があり,以下のようなことを調査官が主張しています。この主張は正しいのでしょうか。

 〔状況〕

被相続人はその子供のために,10数年にわたって月2万円から3万円の積立定期を行ってきた。その積立定期が満期をむかえるたびに,定期預金に振り替えてきたが,この通帳には子供に対するお年玉,入学祝などのお金も入金されており,これらも合算で定期預金としていた。こうした預金が,相続時点(子供3名のうち2名は未成年であった)では,1人当たり約500万円ほどになっていたが,10年以上前のお年玉,入学祝などは通帳もなければ,銀行側に記録もないため,金額の特定は困難である。

また,こうした預金があることは,子供らも承知している。

なお,月2万円から3万円の積立てのため,贈与税申告は行っていない。また,相続前3年間に増加した積立定期はほとんどない。

〔調査官の主張〕

これらの預金は,以下の理由によりお年玉,入学祝と立証できるものを除いてすべて相続財産に組み入れるべきである。

① 贈与税申告書が出ておらず,被相続人の贈与の意思が確認できない。

② これらの預金通帳の印鑑は,すべて同一であり,管理も母親が行っていたと推察される。

③ 積立定期の源泉は被相続人の収入であるので,現在の残高に課税する方が公平である。

〔私の見解〕

① 積立定期は贈与により形成されたもので,7年以上前のものについては国税の更正・決定等の制限期間を徒過していると考えている。その理由は,子供名義の積立定期を為すことは,被相続人の贈与の意思が明らかであり,子供らもこの定期の存在を知っている以上,民法上の贈与が成立する。

② 通帳などの保存は10年間が限度であり,10年以上前のお年玉・入学祝等の金額的立証は困難であると考えられるが,そのような立証を納税者に強いることは課税上問題がある。

③ 贈与税は110万円が免税額となっており,それ以下であれば贈与税の申告書を出す必要はないと考えられる。それ故,贈与税の申告がないからといって贈与の意思の確認ができないということはおかしい。それを調査官が主張するのであれば,110万円以下であろうとも贈与税申告書を提出するように指導すべきであるが,そのような指導は一切為されていない。

④ 調査官は印鑑が同一であるという主張をするが,子供がお年玉などを貯金する場合,母親に頼むことが通常であると考えられる。母親は,簡便性のため,子供ごとに印鑑を分けることは,まず行わない。これが一般的ではないと言う反論はあるかもしれないが,常識的に考えて通常起こりうる事象に対し,それを原因として課税することは問題があると言わざるを得ない。

(全文 文字数:6357文字)

他の者の名義で新たに不動産や株式等の有価証券を取得した場合に………

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