ハーフタイム 昔はのんびりしていた

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中国ではいま,『昔はのんびりしていた』という歌が流行っている。わが国にも大挙して押し寄せ,慌ただしく動き回り,爆買するほど豊かな中国人観光客を見ていると,"貧しかったが誠実に生きてきた昔は良かった"というノスタルジーが分るような気がする。

下手な翻訳で恐縮だが,おおむね次のような内容だ。

「昔の少年時代を想い出す。誰でも誠実だった。言うことはそのままの意味だった。早朝,汽車の駅のほうへ行くと,長い街路は暗くて人通りは少なかったが,豆乳を売る店先には熱い蒸気が溢れていた。昔は昼から夜までの時間はゆっくり流れた。汽車も馬も郵便もすべて遅かった。ゆっくりした人生では一人しか愛する暇がなかった (以下,省略)」

この歌には,わが国の高度成長期を経験した世代には共感するところが多い。所得は倍増し,便利な家電製品も一通り揃った。経済大国になり,今日よりも明日は確実に豊かになると思われた日々だったが,自然環境は荒廃し,人の心はドライになった。共同体的だった社会が,利益で結ばれた社会へと変質して行ったからであろう。

谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』を想起させる場面もある。「いったいこう云う風に暗がりの中に美を求める傾...