書評 南 成人・中里 拓哉・高橋 和則著「財務諸表監査の実務」

(中央経済社刊/本体4,600円+税)

日本公認会計士協会 相談役(元会長) 増田 宏一

( 38頁)

本書は,監査実施の基礎となるリスク・アプローチ概念や昨今設定された「不正リスク対応基準」,並びに具体的な監査調書の様式の解説をはじめ,具体的な監査手続並びに会計上の見積り等の財務諸表監査に関連する様々な分野について,南成人,中里拓哉,高橋和則の各氏が,実務書としてまとめた書籍である。

本書の最たる特徴は,我が国の財務諸表監査の実務に関する具体的な解説書であるという点である。

また,コラムも含めて監査実務の具体的な事例や監査実施上の着眼点が要所に織り交ぜられ,臨場感を肌身に感じることのできる解説である。

最も印象的であったのは,「第12章 その他の監査手続」の一部として示されている「質問」の監査手続の解説である。英語の「監査audit」はラテン語の「聴くaudir」を原語としているといわれる。その意味では「質問」という監査手続は我々監査人にとって基本中の基本と考えられるが,質問という手続は,監査の専門性や技術的な特殊性を伴うものではないことから,敢えて詳細な解説を行う書籍を目にすることは少ない。本書では,「『人の話を聞く』という行為が人間として基本的な情報収集手段」であるとして「数多くある監査...