書評 児嶋 隆著『銀行の不良債権処理と会計・監査』

筑波大学大学院ビジネス科学研究科 教授 弥永真生

( 41頁)

わが国で,会計処理及び監査を巡る裁判例が蓄積されたのは,銀行の不良債権についてであったといって過言ではない。他方,貸付金に係る信用損失の認識の遅れが,会計基準の不十分な点の1つとして認識され,IASB及びFASBがこの問題に取り組み,予想損失減損モデルに基づく会計処理がIFRS第9号において要求されるに至った。

ところが,銀行における貸倒償却をめぐって,長銀・日債銀事件前にどのような議論がなされ,どのような実務の積み重ねがあったのかについて,詳細かつ網羅的な研究はなく,他方で,?長銀・日債銀事件についてはともかく?りそな銀行,UFJ銀行または足利銀行をめぐっては,法律学あるいは会計学の研究者による深く掘り下げた論稿が少ないという印象があった。また,欧米において,監督当局・議会または監査人が,金融危機時の対応についてどのような指摘・主張をしたのか,またしているのかについて,詳細に紹介・分析がなされた先行文献もわが国には存在しないように思われる。

そのような中で,本書は,IFRSの動向にとどまらず,銀行の不良債権処理との関連での会計上・監査上の問題点を,広く,深く掘り下げている。多くの文献を渉...