書評 橋本 尚編著『利用者指向の国際財務報告』

野村証券エクイティ・リサーチ部 シニアストラテジスト 野村 嘉浩

( 54頁)

日本企業における国際会計基準(IFRS)の任意適用がその予定・検討を含めて100社を超える時代となった。こうした中,IFRSを中心に国際的な財務報告制度に関する研究の第一人者たる青山学院大学の9名の先生方による総合的な著書が発刊された。

タイトルに凝縮されるように,「投資家を代表とする財務諸表利用者の視点から財務報告制度はどうあるべきか」について問題意識を共有しつつ,編者によるフレームワークの整理を皮切りに,IFRS適用に関する制度論,税務上の論点,統合報告との関連性,IRとの関連性,医薬品業界を題材としたIFRS適用事例といった幅広い切り口から,計7名の先生方がコンパクトに論点を整理し,意見を発信されている。これらの各章は,初学者にとって知識の習得の機会となるだけでなく,当該分野の研究を進めている識者にとって新たな発見を感じ取れる。

その上で,第9章で展開されるアンケート調査を,本著のユニークな企画として注目したい。当該アンケート調査には,編者を含め6名の先生方が携わっている。

まず第2章において,公益社団法人日本証券アナリスト協会が2010年6月に実施したアンケート結果を踏まえた2012...