ハーフタイム 人はなぜ「不都合な事実」を隠すか

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2015年は,内外で深刻な企業不祥事が発覚した年となった。国内では,6月には東洋ゴム工業の免震ゴム偽装問題で最終報告書が,7月には東芝の不正会計に関する第三者委員会報告が,そして11月には旭化成建材によるくい打ちデータ不正事件最終報告書が,それぞれ公表された。欧州経済の中心地ドイツでも,フォルクスワーゲンによる排ガス不正事件が明るみに出た。こうした企業不祥事が明るみに出ると,企業倫理がどうのこうのという話になるが,P・ドラッカーによると,企業倫理などというものはない,あるのは個人の倫理であり,うそをつかない,人を騙さないといったような日常生活でも大切な正直さである。ただ,経営幹部には,職業上の倫理としての「義務感」を求めている。たしかに,ほとんどの不祥事では,まず経営幹部は退陣し,企業から経営責任について訴追を受ける立場になる。法人自体に倫理観が無いのは当然だとしても,いつも分り難いのは,一般社員よりも高いレベルの知性と倫理観を備えているはずの経営幹部が,なぜ「不都合な事実」の公表を先延ばし,それによって会社の信用と自分の名誉を徒に大きく傷つけるのか,である。一般論として考えるための手...