ハーフタイム 経営者は株主の代理人か財産管理者か

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米国会計学会がASOBAT(1996)を公表したころは,経営者は株主に対して受託責任を負う「財産管理人」(Steward)だった。米国概念書第1号(1978)でも,財務報告の目的の一つは財産管理人である経営者が負う「受託責任」(Stewardship)を定期的に解除するための情報提供だった(50項)。スチュワードとは元来,中世の英国で荘園の管理を領主から託された人であり,株式会社にあっては所有者(株主)に忠実義務を負う経営者であるから,長期・安定的に財産の維持管理に当たる"堅実な人"といったイメージが漂う。

ところが,その後の概念フレームワークでは(IFRSのそれも含めて),「受託責任」という言葉は消え,経営者は企業統治の対象へと変化した。そのわけは,経営者は,財務報告の内容以上に詳しい企業情報を持つ地位(いわゆる"情報の非対照性")を利用して自己利益を追求する人とみなされるようになったからである。そこで定着した代理人説(Agency theory)によれば,経営者は,株主(Principal)の代理人(Agent)でありながら,株主利益に反しても,自分のために短期的利益を追求するものだ...