監査人の交代に関する実態調査の結果について

青山学院大学大学院 教授 町田祥弘

( 12頁)

1. はじめに

近年の会計不正事例を契機として,現在,金融庁において,「会計監査の在り方に関する懇談会」が開催されており,今後のわが国の会計監査制度に関する議論が行われている。

同懇談会は,非公開で行われているが詳細な議事要旨が公開されており,そこでの議論では,長年にわたって関与していた監査人が,職業的懐疑心を十分に発揮せず,企業側の組織ぐるみの不正に対して無力であったことが重要な問題の1つとされ,監査人がいわゆる「新鮮な視点」によって,独立的かつ懐疑心を高めた状態で監査業務を実施できることを目途として,監査法人の強制的交代制度が重要な課題の一つとして俎上に載せられている。

監査法人の強制的交代制度は,海外においては2001年のエンロン事件の後に,またわが国においては,2005年に発覚したカネボウ事件の後に検討されたものの,いずれも導入には至らなかった。

ところが,2008年の金融危機において監査人が十分な機能を果たさなかったのではないかとの批判を受けて,監査の品質を高める方法の1つとして,監査法人の強制的交代制度が議論の俎上に載せられ,EUでは,2014年4月16日にEU規則として,上場会社...