ハーフタイム 苦悩から歓喜へ:ベートーベンとミケランジェロの場合

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フランスのノーベル賞作家ロマン・ロラン(1866~1944)は,「人間いかに生きるべきか」に正面から向き合い,作品を読む人に情熱と生命観を吹き込む。代表作「ジャン・クリストフ」はベートーベンをモデルにした長編小説の文庫本で全4巻もあるから忙しい人にはコンパクトな伝記『ベートーベンの生涯』のほうがおすすめだ。姉妹編『ミケランジェロの生涯』も併せ読むと,大芸術家の2人はともに人生の様々な苦悩に翻弄されながらそれを突き抜けたところで真の歓喜を見出したことが分かる。二人に共通するのは"苦悩から歓喜へ"である。そこに時代や環境を超えて親しみを感じるならば,良い仕事をするための知恵と勇気が貰えるであろう。

ベートーベンは1770年にケルンに近いライン河のほとりのボン市の貧しい屋根裏部屋で生まれた。父親はしがないテノール歌手で無類の酒好きであったため収入は途絶えがちで,息子を神童として売り出し喰いものにしようとした。17歳のときにベートーベンが一家の主となり二人の弟の教育義務まで背負ったのは,酒飲みの父親を隠遁させて年金を浪費させないためだった。彼の人生は最初から悲しくて冷酷な戦いだったのだ。22歳で...