ハーフタイム 速い思考と遅い思考

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企業会計で言う"認識"とは,「財務諸表の合計額とともに,会計項目を言葉と数字で表現すること」を意味する(FASBのSFAC5号9項)。収益認識あたりまではこの定義で充分だとしても,将来キャッシュフローの予測を伴う公正価値会計にはこれで充分とは言えないであろう。金融資産には適用出来ても,非金融資産については市場参加者の目線で最高価値を見出すのは至難のわざである。バリュエーション・テクニックを使うにしても,将来キャッシュフローを合理的に的確に見積ることが前提となるからだ。金融負債の公正価値測定には,相手の信用力だけではなく,その他の要因も考慮しなければならない。そのような公正価値測定の結果が,測定対象である資産負債の"認識"を支えるのである。

森田・岡本・中村『会計学大辞典』では,認識について一般的な定義を考えるのは無意味であろうという。たしかに複雑な認識をこうだと定義するのは無理であり意義も乏しい。定義よりも人間が物事を認識する能力は信頼できるかどうかを吟味してみるほうが肝要だ。

てきぱきと判断し効率良く仕事をこなす人の中には,外形だけみて反射的にこうだと即断する人や,過去の事例に照らして"...