ハーフタイム クールヘッドとウォームハート

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"冷静な頭脳と温かい心"(Cool Head, but Warm Heart)は,アルフレッド・マーシャル(1842~1924)が1885年にケンブリッジ大学教授に就任したときの演題であった。彼は主著『経済学原理』第1章でも「経済学は富の研究であるとともに人間の研究でもある」,「世界経済を形成してきたものは宗教的な要因と経済的要因である」と述べている。

これらの言葉の背景には,父親は聖職者になるように望んだが,彼はまず数学を学び,道徳科学講師になったあと,経済学講師に転じた経歴と深い関係があるように思われる。

彼を有名にした数式に"マーシャルのk"がある。貨幣数量説:MV=PY(貨幣流通量M×貨幣流通速度V=物価水準P×実質国民所得Y)から得られるV=PY/Mを転用して,k=M/PYあるいはM=k PYを導き出した。このkが意味するものは「人々が所得のうち貨幣として保有したいと考える割合」である。貨幣数量説:MV=PYからは,VとYを一定とすれば貨幣流通量Mをどんどん増やせば一般物価水準Pは上昇するはずだ。ところが,人々が将来に不安を覚えるときにkはどうなるであろうか。Mを増やしても個人所...