ハーフタイム 「忖度」の是非

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人類学者の山極寿一によると,「ゴリラは人間の気持ちを読むことにかけては名人なのです。サルは厳密なヒエラルキー社会に生きていて,立場の優劣は態度で決めるから,相手の表情を読んで忖度する必要がない。他方,ゴリラは優劣のない社会に生きていて,忖度する共感能力があるのです。」(『「サル化」する人間社会』)

私たち人間も,対人関係の大部分をインフォーマルな情報や忖度によって決めることが多い。忖度するには,相手は何をしたいのか,自分は何を望まれているのかを汲み取り,どういう態度をとるべきかを,相手の表情を読んで,また状況に則して考えるから,相手の意向がまっとうで平等な立場で忖度するかぎり,それは潤滑剤の役割を果たす。

ただ人間社会は,単純で平等なゴリラ型社会ではない。サル型社会のヒエラルキーになりつつあると言っても,序列による単純な支配従属関係ではない。「共感能力」だけではなく「状況判断能力」も必要であり,利他主義だけではなく利己主義が働く利益社会である。

おまけに人間社会のヒエラルキーでは取り巻きや腹心の部下による忖度が権力者の判断に大きく影響する。たとえば,映画『花戦さ』によると,千利休を自死に追い...