マイナス金利をめぐって

慶應義塾大学経済学部 教授 池尾和人

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名目利子率と実質利子率

利子率(または金利)とは,現在時点でのAと将来時点でのAの交換比率から1を引いたもののことである。例えば,現在時点でのAの1単位が将来時点でのAの1.2単位と確実に交換されるということなら,利子率は20%だということになる。通常はAとして貨幣(お金)を想定することが多いが,その場合の「貨幣」利子率のことを「名目(nominal)利子率」と呼んでいる。

しかし,Aとして特定の商品あるいは「商品のバスケット」を考えることもできる。いまAとして小麦を考えると,現在時点での小麦100kgが1年後の小麦何kgと交換(変換)できるかで,「小麦」利子率が決まることになる。いま小麦100kgがあるとして,それを種籾として栽培を行うと,1年後にいろいろな経費を差し引いても110kgを収穫として得られるのであれば,この場合の小麦ベースで測った利子率(年利)は10%だとみなせる。

これに対して,そうした栽培技術は利用可能ではなく,小麦を将来に持ち越すには在庫する以外にないとしよう。単に在庫するだけだと,倉庫代や経年変化による品質劣化などを考慮したとき,1年後に持ち越せる量は,元の量を下回る...