私の会計史 theme1 ブラッセルで体験した為替変動会計(1)

フジタ国際会計コンサルティング(株) 代表 藤田敬司

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はじめに

本シリーズは,筆者個人が仕事上体験・経験した企業会計を,今日的視点から振り返り,テーマ別にまとめたエッセイ(または随想録)である。

筆者は商社に入って6年目,海外転勤が内定してから急きょ10カ月だけ財務部から経理部に移って,簿記会計の初歩を学び,決算とはどういうものか体験させてもらった。

初めての海外勤務地は,英独仏蘭に囲まれた欧州の小国ベルギーの首都ブラッセルであった。元はEC(欧州共同体,EU(欧州連合)の前身)本部の情報収集のために開設された駐在員事務所であり,1969年当時はフランス現地法人の支店として営業活動を始めたばかりだったから,会計の実務経験が乏しくても何とかなると思われたのだ。

ところが,1971年にはニクソンショックと固定相場制の崩壊を経験。その後の変動相場制への移行期にあっては,為替変動リスクとの闘いを強いられ,不慣れな会計処理に悩まされた。だが,何事もそうだが,苦労して考えて身に付けた分野ほど確実に面白くなる。

振り返ると,サラリーマンとしての30年と大学教員での13年は会計の激動の時期だった。経験した実務は,主として伝統的な取得原価主義会計だったが,いまの金融...