「監査法人のガバナンス・コード」への対応を聴く トヨタ自動車株式会社

  常勤監査役:中津川 晶樹
  聴き手:町田 祥弘(青山学院大学大学院教授)

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1.企業からみた監査法人コード

町田  本日は,「監査法人のガバナンス・コード」(以下,コード)について,企業側からの視点としてトヨタ自動車株式会社(以下,トヨタ)の常勤監査役である中津川さんにお伺いします。会社法上,会計監査人の選任議案の決定権は,監査役等にあると規定されています。その点を踏まえて,コードの公表についてどのように受け止めていますか。

中津川  日本監査役協会が,本年1月にコード案に対し,「監査法人のガバナンス・コードによって,監査品質が向上されることを期待しています」というコメントを出しています。

一般の会社の監査役の立場から考えますと,これまでは「監査の品質が重要だ」ということは頭では理解しているものの,監査法人の考え方や具体的な取組については今ひとつわからないところがあったかもしれません。透明性報告書が出ることによって,「そうだったのか」と理解できる監査役が増えて,監査法人とのコミュニケーションが高まることが期待されるということで,大変有意義であると思っております。

ただし,コードが出ることで,監査法人の実務の現場に過度な負担がかからないよう,運用を工夫して頂くべきではないかと思います。

町田  コミュニケーションが高まるというのは,具体的には,どういう点になりますか。

中津川  例えば,監査法人内部の話については, 会社計算規則第131条 の通知(※編注:会計監査人の職務遂行に関する事項の通知)を頂いてはいますが,透明性報告書によって,その内容に関するより具体的な説明や質問などが深まると思います。

町田  では,コードに関して,不足している点や課題だと思われる点はいかがでしょうか。

中津川  とくに,不足している点はないと思うのですが,コードの原則4を見ますと,監査法人として経営のトップがしっかり現場まで方針を浸透させるということが書いてあります。それはもちろん大切ですけれども,原則4の考え方にもありますが,監査の現場からの声も非常に重要ですので,そこをもっと強調してもいいのではないかということも日本監査役協会からは申し上げました。

また,先ほど触れた透明性報告書と 会社計算規則第131条 の通知との関係を整理して頂かないと,現場に混乱が生じる恐れがあります。

わかりやすい例を挙げますと,4大監査法人の透明性報告書を拝見すると,どの監査法人も,「海外のグローバルネットワークファーム...