「監査法人のガバナンス・コード」への対応を聴く 島崎 憲明(野村ホールディングス株式会社 社外取締役・監査委員長)

  聴き手:町田 祥弘(青山学院大学大学院教授)

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1.企業からみた監査法人コード

町田  本日は,「監査法人のガバナンス・コード」(以下,コード)について,企業側からの視点として野村ホールディングス株式会社(以下,野村HD)の監査委員長である島崎さんにお伺いします。

 会社法上,会計監査人の選任議案の決定権は,監査役若しくは監査役会,監査等委員会又は監査委員会(以下,監査役等)ということになります。そこでお尋ねしますが,監査委員長の立場で,コードの公表についてどのように受け止めていますか。

島崎  今回,私も,四大法人の「透明性報告書」やそれに類する報告書を読みました。内容はごく一般的なことが書いてありますが,このような形で改めて各法人の取り組みが整理されたこと自体は評価できると思います。

私がそれらの報告書の中で,非常に重要だと思う点は2つあって,経営理念と人材育成に関する記載です。

経営理念は,監査法人がどのような思想の下に業務を行っているかという,会社経営でいえば背骨になるところです。例えば野村グループには「創業の精神十カ条」があり,その中には「顧客第一の精神」などの基本観があります。監査法人においても同様のものがあって報告書には色々と書かれていると思うのですが,重要なのはその実効性をどう高めるかですよね。監査法人の幹部にはじまり実際に現場で監査をしている監査チームの個々人まで,その経営理念や経営思想を徹底させることが必要です。

これにより,日々の業務を行うときに,常にそこに立ち戻ることができるような環境作りが非常に大事だと思います。実効性を高め,現場まで経営の指示が行き渡るような組織にしなければいけません。

人材育成も同様です。監査法人の財産はそこではたらく人そのものですから,監査の品質を論ずる場合も,実際に現場で監査をする人たちのクオリティを抜きには語ることはできませんよね。「監査法人として」という大きな枠組みの話も大事ではありますが,野村HDに来る監査チームのメンバー,パートナー以下が,どれだけのクオリティを持っているか,ということが監査の品質に直結するということを忘れてはいけません。監査の中でおかしなことがあればそれに気づく,経営者と対等に渡り合える,そのような人材が求められています。

ただ,そうした人材育成は時間がかかるものですので,人の育て方や,人材育成のプログラムの組み方などに監査法人の力量が問われてくるのだと思いま...