ハーフタイム 推定的義務

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法学は会計に最も隣接する学問の一つであり,「法とは何か」を巡る考え方には,会計の細則主義と原則主義に似た対立がある。あらゆる法的ルールは国会で制定された法律に基づかなければならないという法実証主義(細則主義会計に近い)とそれに対立する学派(原則主義会計に近い)が拮抗している。

英国の法哲学者H.L.A.ハート『法の概念』によれば,「人間である立法者は,未来に生じるあらゆる可能性を予期できない」と,法実証主義者が陥り易い形式的細則主義には批判的である。ではどこに包括的な原則を見出すべきであろうか。彼は「法と道徳とは,責務・義務・権利等の概念を共有するし,すべての国内法秩序は,基本的な道徳の要求と同じ内容の要求をするものだ」という。その道徳とは,モーゼの十戒ではなく「人間の行動を評価する究極の規準」であるから,権利義務等の概念を共有する負債概念に深く関連することになる。

IFRSの負債概念には法的義務のほかに"constructive obligation"がある(概念書及び引当金基準IAS37)。通常は「推定的義務」と訳されるが,分かり難い訳語であるから,定義をじっくり読み込む必要がある。す...