ハーフタイム 原価か価値か

( 37頁)

"原価(cost)か価値(value)か"は,米国の実務派会計学者G・O・メイによると,近代会計史の中心課題であった。いまのIFRSでも取得原価と公正価値が共存しているところから,日本の学者の中には「混合測定アプローチ」と呼ぶ人がいる。だが単に混合しているのではない。原価モデルと価値モデルが巧みに使い分けされているのである。

ではどのように使い分けされているだろうか。まず各種資産に係るIFRS基準をみると,非金融資産(棚卸資産や固定資産など販売・生産用事業資産)については,原価モデルが原則法で,価値モデルは選択肢に過ぎない。しかも信頼性ある公正価値測定ができるときに限って使える。本誌の別冊『開示実例と傾向』29年3月期版,IFRS編によると,IFRS適用企業119社はすべて原価モデルを適用している。例外は,準金融資産である投資不動産には原価モデルまたは価値モデルを選択適用できるが,価値モデルを選択したのは1社だけ。非金融資産の大部分は,金融資産と違って個性があり使い方によって価値が異なるから,低価法適用や減損テスト以外では価値モデルは使われない。市場取引の対象になるのはコモディティ商品や...