ハーフタイム モリエール『病は気から』にみる笑いの哲学

  

( 30頁)

近代国家になってからの日本人は,「西洋に追いつけ追い越せ」から始まったためか,生真面目な人が多く,欧米に比べると笑いの文化が浅いと言われる。だが形式美を貴ぶ伝統芸能としての能楽には狂言が付き物であり,庶民文化としては昔から落語や滑稽本があり,決して笑いの後進国ではない。最近のNHK朝ドラ「わろてんか」は,第16週「笑いの新時代」では視聴率を20%の大台に乗せたという。コーラスでも口角を上げて笑顔で歌うと良い声が出る。作り笑いであっても健康に良いと聞く。良い笑いはストレス発散にもなる。

笑いは哲学に馴染まないと思われていたが,フランスのアンリ・ベルグソン(1859~1941)は可笑しさの本質を分析している。題材はモリエール(1622~73)の喜劇。たとえば『病は気から』では,自分は病気だと思い込んでいる主人公は,もっぱら自分のために長女を医者のバカ息子に嫁がせようとする。嫌だと言えば尼僧院へ入れと脅す。主人公を裏で操るのは良妻賢母を装う後妻と,ラテン語の医学用語を振り回すだけで健康よりも金儲けを優先する医者。そのトラブルを解決するのは主人公の弟と女中が演出する劇中劇。クライマックスでは,死...