LED照明を対象とした循環取引

~大手広告代理店子会社でなぜ循環取引が行われたのか?

東京霞ヶ関法律事務所 弁護士 遠藤 元一

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第1 はじめに

大手広告代理店の子会社D社に対し,平成22年~23年,LED照明等の架空取引を持ちかけ,前渡金名目で合計56億円をだまし取ったなどとして,6件の詐欺に問われたLED販売会社A社の実質的経営者(Y1),代表取締役(Y2),A社の代理店B社の代表取締役(Y3),電子部品製造委託・販売会社E社(当時上場企業)の取締役(Y4),中小企業支援会社H社の代表取締役(Y5)の被告人5名(総称するときは「Y1ら」という)について,平成29年11月9日,東京高等裁判所(以下「東京高裁」という)は,D社がLED照明等を対象とする循環取引の詐欺の被害者として巻き込まれたとして検察側が描いた構図を認めず,D社側の取引の担当者であったD社のビジネスグループ長(X1)も,D社代表取締役(X2)も,取引が実際に商品を納入する実取引ではなく,取引があったかのように装って関係企業間で資金を還流させる循環取引であると認識しており,Y1らに詐欺の故意はなかったとして,無罪を言渡した平成28年3月16日東京地裁判決について,全体として見ればその判断過程及び結論が論理則,経験則等に照らして不合理とはいえず,是認で...