対談 監査法人の果たすべき役割と課題について考える 市場が求める監査とは

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日本取引所自主規制法人 理事長 佐藤 隆文
大原大学院大学 教授/青山学院大学 名誉教授  八田 進二

上場企業による会計不正は後を絶たず,東芝事件によって監査を巡る様々な問題がクローズアップされている。監査人の交代や引継ぎ,説明責任,守秘義務など,答えどころか問題の所在すらよく分からない課題が山積である。

監査法人が果たすべき役割と課題は何なのか--。「監査意見は神聖不可侵ならず」発言の真意などもききながら,日本取引所自主規制法人の佐藤隆文理事長と監査論の八田進二教授に監査に纏わる問題の本質を議論していただいた。

1.現行の監査制度の目的及び趣旨

八田教授(以下,八田)  昨今,監査法人による監査に対して社会から様々な厳しい意見がでています。そこで「市場が求める監査」について,佐藤理事長が日ごろ思っておられるところを伺っていきたいと思います。通例,対象とする監査制度は金融商品取引法監査と会社法監査です。いずれの場合も,公認会計士(監査法人)は,財務諸表の監査を独占的に行える権限を与えられており,そうした監査人であれば,誰であっても同質・同等レベル以上の監査を行っているというのが利用者側の期待であるということです。しかし,現実には問題がいくつかあり,佐藤理事長も現行の監査に対して問題を提起されていますので,その辺りを踏まえてお尋ねします。やはり東芝問題を例にしますが,東芝の監査では,歴史のある著名な監査法人が長年にわたって監査を行ってきたものの不正の端緒すら見出だせなかったとか,後任の監査法人によるその後の不透明な対応もあり,この2年間いろいろな議論が沸き起こりました。まず,佐藤理事長のご感想を伺いたいと思います。

佐藤理事長(以下,佐藤)  専門家ではないので素人の立場からの感想になりますが,東芝の監査に関して言えば,監査を受ける東芝側で,多岐にわたる部門での誤魔化しというか虚偽の説明が行われていたようですから,その会社に対峙する会計士側の職業的懐疑心のレベルの深さとの戦いだったのではないかという気がします。

組織的に隠ぺいが行われた場合,監査法人の側でそれを直ちには見つけにくいということについては,そういうものなのかなという気もします。他方,公認会計士はそれを見抜くために独占的に業務を行える国家資格を付与された人たちであって,長いあいだ研鑽を積んでいる方々なので,見つけにくいとは...