ハーフタイム 「経済人」に代わるものは「直観的判断力」

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「経済人」とは,常に自分の経済的利益を最優先して行動する,しかも完全無欠な情報を得て正しい判断をする人間である。このような抽象的な人間は現実には存在しない,存在するとしても稀である。だが経済行動を理論化し数値化するうえで便利だから経済学でよく使われる。自分の利益だけ考えて大量の情報を駆使できる人はいても,先を読み利益最大化に成功するのはごく一部のラッキーな経営者に限られる。成功した経営者の回顧談は,結果さえよければすべて良かったことになるから,意思決定のプロセスに関心をもつ人々には参考にならない。

その点を反省して登場したのがD.カーネマンらによる『不確実性下における判断-ヒューリスティックスとバイアス』などから始まった行動経済学。人間の合理性には限界があるから,いきなり最適解を狙うのではなく,限られた時間内でなんとか満足できる選択肢の発見に努めようという現実的な対処法である。

P.ドラッカーは『経済人の終わり』(1939)で,経済人の社会においてあらゆるものが計算可能と理解され,合理性一点張りの人間観はファッシズムに通じると警告した。自国経済のために貿易戦争が起こり,本物の戦争へのリスク...