書評 町田 祥弘著『監査の品質‐日本の現状と新たな規制』

(中央経済社刊/本体4,000円+税)

早稲田大学大学院経営管理研究科 教授 小宮山 賢

( 32頁)

本書を手に取った際に最初に目に入る帯には,「監査の失敗を防ぐアプローチ 外部からは把握できない"品質"をどう捉え,高めるか。そのための規制のあり方とは。制度・歴史・理論・実証といったさまざまな側面から考察」と記されている。この中には,概念が必ずしも明確になっていないキーワードが含まれている。監査の失敗という表現は,わが国では監査研究者が特に好んで用いるようであるが,誰の失敗なのか,あるいは,過失の有無が関係するのかもどうもはっきりせず,監査制度の性格上読者の立場により次の品質への理解が異なっていくように思われる。本書では,監査の品質について,序章において次のような暫定的な定義を示している。

「監査の品質とは,主に一般目的の財務諸表に対する法定監査を前提とするとき,監査を取り巻く規制や被監査企業の状況等の監査が実施される環境の影響のもと,監査人が監査手続によって,重要な虚偽の表示を発見すること,かつ,それについて,経営者に対して修正させることによって適正な財務報告を実現するか,あるいは,監査報告を通じてそのことを明らかにして不適正な財務報告によって利用者が誤導されることを防ぐことの程度であ...