【座談会】アナリストの仕事と役割 第1回 有価証券報告書の使い方

SMBC日興証券株式会社 株式調査部シニアアナリスト 大瀧 晃栄
アムンディ・ジャパン株式会社 ディレクター 鎌田 博光
三井住友アセットマネジメント株式会社 企業調査グループ スチュワードシップ推進室長 齊藤 太
株式会社野村総合研究所 上級研究員 三井 千絵

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過去10年以上に及んだ国際的な会計基準の整備・開発が一段落し,関係者の対応は基準の適用と円滑な運用へと進んでいる。IASBは次の段階を市場関係者間の"Better communication"と位置づけ,情報利用者であるアナリストや機関投資家から開示情報に対する声を聞いているところ。一方,財務諸表の作成者側である企業の実務家からは「情報利用者が開示情報をどのように使っているのか」「そのデータが必要な理由は何か」といった声も聞こえる。"市場関係者"で括られても,立場が違えば相手側の開示情報の扱い方に対する不明点は多いはず。そこで本誌は財務諸表の利用者に集まっていただき,アナリストたちの仕事や役割,有価証券報告書の使い方などを議論していただいた。

1.アナリストの仕事と役割

三井  本日は,アナリストや機関投資家と呼ばれる人たちが,企業分析や投資の意思決定のために財務諸表をどのように利用しているのかをお話いただきたいと思います。その前に,企業で会計実務に携わっている方々は,IR部門とは違って日ごろアナリストや投資家と接する機会が少ないと思われるので,それぞれの仕事がどのようなもので,それぞれの業務においてどのような役割を担っているのかを共有しておきましょう。私自身は現在研究員をしておりますが,以前は通信社でマーケットデータの配信サービスに関わっており,為替,金利,株価そして決算情報を扱いました。つまり投資家等に情報を提供する側の仕事です。その後現在の会社に移り,またしばらく財務データベースを担当していたので,マーケットデータの情報ベンダー業は合計で20年ぐらい,決算情報を元にした財務データの提供については10年以上の関わりがあります。お客様としてのアナリストや投資家と接してきましたが,その仕事は多岐にわたっていると思います。また企業の評価や選択は簡単ではなく,あらゆる形で情報を駆使して行われますから,中には企業の方が想像もつかない方法もあるかもしれません。そこでお集まりいただいた皆さんにも,それぞれに担っておられる役割を簡単にご紹介いただきたいと思います。

齊藤 私はセルサイドでアナリストを始め,その後,バイサイドに移っています。長い間アナリストとして企業を分析・評価し,そして将来を予測する仕事に携わっていたことになりますが,現在はこうした業務に加えスチュワードシップ活動にも関...