ハーフタイム 「実質主義」と「慎重性」の対極にあるもの

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2018年3月末,IASBによる概念フレームワークの改訂では,実質主義(Substance)と慎重性(Prudence)が,8年ぶりに「財務情報の質的特性」の一部として復活した。

ここでは,会計上の意義については直接触れるよりも,それぞれの対極にあるものを探し,わが国における歴史的な,または社会的な意味を考えてみたい。そのほうが却って,より広い角度から会計や監査を考えるきっかけになると思われる。

実質主義の対極にあるものは,いまさら言うまでもなく形式主義である。一口に形式主義と言ってもいろいろある。鎌倉幕府滅亡後の室町時代(1338~1573)には,茶道,華道,能楽など日本文化の華が咲き誇った。共通するものは「型」を大事にする「審美的形式主義」。茶道は禅の儀式の発達したものである(岡倉天心『茶の本』岩波文庫)。華道は,家元や流派によって異なるが,一定の様式・技法を守ることによって美を追求する。能楽でも,"序破急"と呼ばれる伝統的な雅楽の構成様式を使う(世阿弥『風姿花伝』岩波文庫)。スポーツにおける厳しいルールと同様に,伝統芸能には形式が不可欠である。

ところが,徳川時代に入ると,厳しい士農工...