ハーフタイム 会計にとってプラグマティズム(実用主義)とは何か

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福沢諭吉は,『学問のすすめ』で,「学問とは難しいことばかり学ぶのではない」,「専ら勤しむべきは人間普通日用に近き実学なり,たとえば帳合の仕方,云々」と述べている。

江戸の町人にとって帳合の仕方(簿記)こそ実学の代表格とみたのは,わが国で初めて簿記書を翻訳したのが同氏だった経緯もあろうが,いまも会計は役に立つ実学の筆頭である。

ところが会計はいまや"難しい学問"になっている。難しくなったのは,次の3つの提言にみられるように,モノの価値変化が激しくなり,時価や公正価値を重視するようになったからだ。他方,難しさに歯止めを掛ける議論や基準改訂も行われている。

第1は,米国会計学会AAAによる基本会計理論書ASOBAT(1966)。それは,意思決定と行動における有用性(Relevance)を高めるためには,外部報告においても経営管理においても,伝統的な歴史的原価(historical cost)だけでなく,時価(current cost)を併記して報告すべきだと提案した。実務界の反応は芳しくなかったが,十数年後に原価・時価併記方式を導入した米国不動産会社が現れた。出張の際に寄り道をして帳簿をみせて貰う...