書評 越智 信仁 著 『社会的共通資本の外部性制御と情報開示―統合報告・認証・監査のインセンティブ分析』

(日本評論社刊/本体3,700円+税)

日本大学経済学部 教授 古庄 修

( 45頁)

本書は,「人間の幸福(well-being)に資する社会的共通資本の外部性制御に向け,非財務情報開示を軸にした制度設計を通じて,情報の非対称性や契約の不完備性に伴う非効率を改善する方策を考察した」(238頁)徹頭徹尾アカデミックな研究書である。

ここに「社会的共通資本」とは,本書において鍵となる包括的な概念であり,所有権が割り当てられない点に共通の特徴がある。地球環境問題,企業不祥事や地方創成,金融バブルや監査の失敗といった今日的な社会的課題を重大な外部性の問題として捉え,情報開示という共通の枠組みの下で分析するうえで,其々,自然資本,企業や地域との関係性の概念である社会関係資本,および金融制度や監査制度を制度資本として整序されている。

本書の主題は,このような社会的共通資本の外部性問題を対象に,インセンティブ分析の思考枠組みを方法論的基礎とした,外部性制御のために適用可能な開示規律の論理やインセンティブ設計の考察にある。認証や監査まで含む広義の概念として定義された情報開示に係る経済主体のインセンティブに着目するとともに,外部性を推認可能な(比較可能性を担保した)非財務情報の役割を認めて,...