実務視点で読む 会計・監査裁判例 第1回 オリンパス社事件高裁判決(東京高判令和1・5・16)

解説

日本大学商学部 准教授 紺野 卓

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1.裁判例のポイントと選者の視点

一部上場会社で光学機械及び精密機器の製造等を目的とするオリンパス社(以下,O社)の不正会計により支払いを余儀なくされた課徴金・罰金に関連して,加えて,分配可能額を超えた剰余金の配当があったとして元取締役に対する損害賠償請求が認められた事件(東京高判平成29年(ネ)第2968号:裁判所HP)。

O社の不正会計に関連する事案として,主に以下のような複数の裁判例等が確認できる。その中でも本稿で取り扱う⑭の裁判例は,不正会計に至る経緯等を詳細に検討できる事案として注目できる。加えて,同事件では,O社の監査を担当していた新日本有限責任監査法人(以下,E監査法人)および前任の有限責任あずさ監査法人(以下,F監査法人)に対し,業務引き継ぎの体制が不十分であったとして公認会計士法に基づく業務改善命令が出されている。その後,監査における「不正リスク対応基準」が策定されるなど本事件に関連した影響も大きく実務でも参考となる裁判例といえる。

<刑事裁判>

(1)虚偽のある有価証券報告書を提出したことについてO社,およびO社元取締役Y3・...