ハーフタイム “三方良し”はいまも通用するか

解説
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近江商人が唱えた“三方良し”は,“売手良し,買手良し,世間良し”を意味する。この旗印に,企業統治上の重要ステーク・ホルダーと目される株主と労働者の姿はないが,当時は株式会社制度がなく,番頭・手代・丁稚は統領家のメンバーとして,仕入れでは買手,販売では売手に含まれるはずであるから,とくに問題はない。それよりも,創業者が近江出身である企業がいまもこれを旗印にしているのは理にかなっているかどうかが問われる。以下では,まず買手,次いで世間の順に,また会計と経営の順に検討してみよう。

第一に,売手にとって買手は重要なパートナーであり,“非契約的顧客関係”と“顧客リスト”は,IFRS3-IE23の通り,企業結合会計ではいまや価値ある無形資産である。また,わが国伝統の企業会計では売上高と売掛金は「出荷基準」で計上してきたが,「顧客との契約から生じる収益(IFRS15)」とその日本版では「顧客による商品の支配取得」イコール「売手の契約義務履行」とみなす。これは収益認識時点の遅延ではなく,顧客の便宜に配慮し,今後の取引を活発化する“互恵的顧客重視”の勧めと解釈すべきであろう。

第二に,世間良...