[全文公開] 新型肺炎対応 バーチャル株主総会の可能性

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新型コロナウイルスが総会開催にも影響
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新型コロナウイルスの拡大防止に向け政府は「今後1~2週間が正念場」とするが,どこまで長引くのか不安を抱く人は多い。こうした中,大人数が集まるセミナーやイベントの類は続々と中止になっている。12月決算会社はこれから株主総会を迎えるがその対応はどうなるのか。事態が長引けば6月の総会シーズンにも影響が及ぶだろう。制度的には総会開催日を動かせるものの積極的な対応はあまり見られない。他に手はないものか。

株主総会にも影響

安倍首相,加藤厚労相,小池都知事,そして感染症対策の専門家らが「この1~2週間が拡大防止に向けた極めて重要な時期・正念場」と口をそろえる。さらに「大規模なイベントのみに止まらず,会社内の飲み会であっても注意してほしい」――新型コロナウイルス(COVID -19)の感染者が増加するなか,政府は感染拡大を抑え込むための注意喚起を繰り返している。

感染拡大の影響は企業の生産活動において早期に表面化し,そのまま経理・財務などの他分野にも広がっている。

例えばディスクロージャーの面。金融庁や東京証券取引所は,有価証券報告書等の提出期限の延長や開示遅延への対策をすでに打った。これと並行して企業からは四半期報告書の提出期限延長などが相次ぎ,直近では個人投資家向け四半期決算説明会を中止する企業も出てきた。

次は定時株主総会だ。注目された日産自動車の(臨時)株主総会(2月18日開催)は空席が目立ったとの報道も。そして3月に開催を予定する会社では次のような内容の感染拡大防止策の公表が続いている。

・マスク着用,アルコール消毒液設置

・出席の自重の呼びかけ

・インターネットによる議決権行使の呼びかけ

・総会運営側スタッフのマスク着用等

大勢が集まる会合の開催などは国レベルで再検討を求めているため「こんな非常時でも総会を開くのか」「延期できないのか」と疑問の声がある。企業側には「法令・定款の義務違反」や「数カ月の延期であっても経営に影響する」など,企業として取りたくない重大なリスクがあるもよう。ならばインターネットを使って対応できないか。そもそも一所に人が集まる必要があるのか。そんな疑問も浮かんでくる。聞けば「実際,3月期決算の会社で検討しているところもある」という。

法令上の規定

人が集まらない総会の開催に向け何を確認すべきか。主だった会社法の関連規定を並べてみた(下線は編集部による)。

第296条 株主総会の招集
 定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。

第298条 株主総会の招集の決定
 取締役は,株主総会を招集する場合には,次に掲げる事項を定めなければならない。
 一 株主総会の 日時及び場所

 二 株主総会の目的である事項があるときは,当該事項
 三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは,その旨
 四 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは,その旨
 五 前各号に掲げるもののほか,法務省令で定める事項

第309条 株主総会の決議
 株主総会の決議は,定款に別段の定めがある場合を除き,議決権を行使することができる株主の 議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う

第311条 書面による議決権の行使
2 前項の規定により 書面によって行使した議決権の数は,出席した株主の議決権の数に算入する

第312条 電磁的方法による議決権の行使
3 第1項の規定により 電磁的方法によって行使した議決権の数は,出席した株主の議決権の数に算入する

ざっと見て気になるのは下線を付した箇所だ。これらをどう考えるべきか。

人が集まらない株主総会に向けて

①では「場所」が問題になる。ネット上の場所を指定するわけにもいかず,したがって完全にインターネット上だけで総会をするにはハードルが高そう。一方,例えば,従来のように大人数を収容できる大会場ではなく,小数ながらも一定の人数を収容可能な場所を指定するのであればどうか。来場者数の予想は難しいが,こうした状況で他に出席方法があるのであれば現場訪問の動機は弱まるだろう。

②については議決権を有する株主の「出席」が要件になる。一部の企業では,すでに株主総会の様子をインターネットで放映している例もある。だがこれは「出席」にはあたらないとの見方も。というのもその場で実際に質疑を踏まえて議決権を行使するのが「出席」の要になるからだ。そうすると,インターネット経由の場合,即時・双方向でのやりとりが可能な仕組みが必要になる。とはいえインターネットの放映を見る場合であっても,③や④のように事前に議決権を行使して臨んでいるのであれば,これを出席と考えることができるのかに議論の余地がないわけではない。

総じて可能性があるのは,最小限の人を収容可能な場所を指定し,開催通知においてインターネットでの参加・出席方法につき十分に案内すること。「このような方法であれば現行法下でも大丈夫では」とする専門家の意見もある。

経産省の検討

人が集まらない総会は感染拡大回避策の一案だが,実は株主総会のあり方に関する議論はすでに行われていたようである。

経済産業省では「中長期的な課題や株主総会当日のあるべき姿について…柔軟な検討を行うこととした」とし,昨年5月に「ハイブリッド型バーチャル株主総会に関する論点整理」を公表,次いで9月に「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」を立ち上げると12月には「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(案)」を公表,意見募集を経て2月26日に同実施ガイドを策定した。ガイドには,物理的な場所での開催にネット経由での参加・出席を加えた「ハイブリッド型バーチャル株主総会」の検討のための「法的・実務的論点ごとの具体的な実施方法や,その根拠となる考え方」が示されている。

そもそも政府からの要請がでたとたんに動き出した時差出勤やテレワークも,もとはと言えば,オリンピック対策を兼ねた働き方改革の一環として検討されてきたものだった。今回の感染症対策を期に,株主総会の形態変化も急速に進むのかもしれない。