<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第7回 会計基準の役割(その4)

解説

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

( 42頁)

投網にかかった魚

企業文化や,社会的信用,組織としてのパフォーマンス能力など,目に見えない資産は,社会通念としては企業の資産であっても,会計上は資産として計上することは出来ない。それらは「自己創設のれん」と呼ばれ,企業価値そのものと直結するため,会計上は計上しない。なぜならば,企業価値を見積もるのは財務諸表利用者の仕事であって,作成者の仕事ではないからである。

概念フレームワークにはこのような記載がある。「一般目的財務報告書は,報告企業の価値を示すようには設計されていないが,現在の及び潜在的な投資者,融資者及び他の債権者が報告企業の価値を見積もるのに役立つ情報を提供する(概念フレームワーク第1.7項)」。すわなち,会計の役割は企業価値を計算することではありませんと,ここで明確に述べている。財務諸表が担っている役割は,あくまでも,企業価値を見積もるのに役立つ情報を提供することだけなのだ。すると,会計基準に基づいた財務諸表が示していることは,川の中に出来るだけ大きく投網を投げて,獲得出来た魚を見せて,この魚の量をみて,この川がどれ...