[全文公開] 週刊『経営財務』創刊70周年記念 会計川柳審査結果発表

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週刊「経営財務」創刊70周年を記念した会計川柳。皆さまから6,535句をお寄せいただき,会計川柳史上最多の応募数となりました。特別審査員として西川郁生氏(元・企業会計基準委員会委員長)と鶯地隆継氏(前・国際会計基準審議会理事)の二名をお迎えし,専門家ならではの視点で選考していただきました。

経理部を舞台にした人気ドラマやラグビーワールドカップなど,世間で広く流行したものをおさえた句は安定感があり,その中でも詠み手のセンスがひときわ光るものを優秀作品として選びました。一方で,収益認識会計基準や監査上の主要な検討事項(KAM)など,会計や監査の実務で注目を集めるものを詠み込んだ句は,「なるほど,こんな着眼点があったか!」と審査員一同,新鮮な驚きとともに選考しました。いずれの句からも,経理・監査の現場がいかに大変かということがとてもよく伝わってきました。その大変さは決算期の財務諸表作成や監査業務でピークを迎えます。ただ,それに限らず,会計基準の適用準備や新制度対応など一定の期間にわたって対応しなければならないことが多いのもまた,大変な点でしょう。その意味で,これからはますます「良い人材」が求められる時代。最優秀賞には,そんな世相を反映した一句を選出しました。

【最優秀賞】(図書カード10万円分)

近年,会計では測れない無形資産が大きくなり,注目を集めています。各社ののれんの金額が大きかったり,GAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)のような企業で帳簿上の金額よりも時価総額がはるかに高かったりするのがその一例です。“The End of Accounting”(邦題は『会計の再生』)という本が話題にもなりました。「人材は資産である」とは古くて新しい議論ですが,無形資産がクローズアップされる現代を象徴するような一句であるため,最優秀賞としました。また,ヒト・モノ・カネという経営資源の中で無形資産にあたるのは人材です。しかし,人材(人間資産)はバランスシートの資産に計上されることがないというのは会計の基本で,それを素直に詠んだ句であることも,高評価のポイントでした。

【特別審査員賞】(カシオプレミアム電卓「S100」)

転職サイトが賑わって,終身雇用が遠い過去のことのようになってきました。最近の若者がすぐに転職してしまう風潮を,会社の年長者が誇張を込めて,嘆いている句に見えます。その一方で自分の会社の在庫の回転が鈍いという意味も込められているとすれば,在庫は回転せず社員は回転する自社を詠んだ自虐モノなのかもしれません。 (西川 郁生氏)

【特別審査員賞】(図書カード1万円分)

資本市場のグローバライゼーションが実現し,企業の規模に関わらず,ビジネスが世界と連動していく中で,会計が世界中に通じる共通言語になりつつあります。そんな中,日本語よりも英語で見た方が意味が分かりやすい,という勘定科目もあります。例えば,「売掛金」は英語では“accounts receivable”。こちらの方が意味が分かりやすいですね。 (鶯地 隆継氏)

【編集部賞】(カシオプレミアム電卓「S100」)

コーポレートガバナンス・コードや記述情報開示の充実化により,企業には政策保有株式(持ち合い株)の解消や保有理由の詳細な説明が求められています。海外投資家からも厳しい視線が注がれるこの時代,「取引関係の強化」等の定型文的な説明では見逃してもらえません。保有には相応の説明責任が生じることを肝に銘じておきましょう。

【編集部賞】(図書カード1万円分)

石鹸メーカーの経理部を舞台にしたドラマの登場人物として話題になった「森若さん」。彼女のモットーは「貸借対照表のごとく,『何事にもイーブンに生きる』」とのことで,そんな彼女の活躍見たさに,放映を楽しみにされていた経理パーソンも多いのではないでしょうか。この句は「スカウトしたい」とのことでしたが,もしかしたら既に,あなたの会社にも森若さんのような方がいらっしゃるかもしれませんよ。




【優秀賞】(図書カード5千円分)

国際会計基準IFRS第15号の定めを取り入れた収益認識会計基準など,英語で書かれた基準を参照して日本基準が作成されることが増えてきました。元が英文のため,どうしても翻訳調の文章になってしまい,「意味が分かりづらい」と言われてしまうこともしばしば。とは言え,基準作成側にも「表現を変えてしまうとIFRSの定めと内容が変わってしまう」との思いがあり,あまり書き下しをするわけにもいかない事情もあるようで,難しいところです。

いよいよ2020年3月期から早期適用が始まるKAM(Key Audit Matters:監査上の主要な検討事項)。各社固有の状況を記載するものですから,スルメのように噛むほどに味が出る熱心に書かれたKAMや,それぞれの「味」が楽しめる個性あるKAMが出てくることを期待したいものです。

「無理はしない」とは聞こえは良いですが,黒字化のためには努力や工夫が欠かせません。もちろんそれが許容できない無理,つまり不正となってしまってはいけませんが,現場からすれば一定程度の無理は必要でしょう。

「口説きに落ちる」と「経費で落ちる」を掛けた,伝統的ともいえる形式の一句。このご時世,軽々しく人を口説いたり,何でもかんでも経費で落とそうとしても,昔のようにはいきません。時代に合わせ,人付き合いの仕方や金銭感覚のあり方もアップデートさせることが望まれます。

収益認識会計基準では,「代理人取引と判断した場合は純額で収益を認識する」とされました。業種によっては従来総額で認識していたものが純額となることで,大幅な売上高の減額が見込まれるようです。その意味で,「ほとんど消えちゃった」はあながち大げさでもないかもしれません。

コーポレートガバナンス・コードの制定などで,近年ますます重要度を増すガバナンス。各社とも自社のガバナンス向上のため,様々な取り組みをしていることと思いますが,その音頭取りをする上役が実は…という痛烈な皮肉。部下からこんなことを言われてしまわないよう,正しい理解と行動をしていきたいものです。

「赤」と「黒」は会計川柳では定番の用語ですが,両者を上手く盛り込んだ一句。「黒字だけどブラック企業」の方がまだマシかもしれない…ついそんなことを考えてしまいます。もちろん,業績にかかわらずブラック企業であってはいけないのですが。

「ディスクロージャーの充実」とそれによる「投資家との対話の促進」は最近のトレンドともいえます。そのトレンドを反映するように,有価証券報告書の記載事項が増えることで,難解さが増しているという側面もあります。とはいえ,得体が知れない一方でワクワクさせられるのもUFOの魅力。「鏡に映して」みたり「光を当てて」みたりして,「素顔」を見てみるのも面白いですよ。

200社・時価総額4割を超えたIFRSの任意適用会社。とはいえ,任意適用に向けた準備や作業などは多く,「なかなか進まない」のも現状でしょう。既に移行している他社の事例なども参考にしながら,IFRSに移行すべき会社がしかるべきタイミングで移行できると良いのですが。

会計人に求められるスキルがますます高度化してきた昨今,求人欄で「必須条件」「優遇条件」とされる項目は増える一方です。はたしてこれらをすべて兼ね備えた人材はいるのだろうか,と思いますが,逆に言えばこれらがあれば重宝されること間違いなしです。

〈特別審査員〉

西川 郁生(にしかわ・いくお)氏
税理士法人髙野総合会計事務所シニアアドバイザー,慶応義塾大学大学院客員教授(現在)。
企業会計基準委員会委員長,慶応義塾大学教授,新日本監査法人(現EY新日本有限責任監査法人)代表社員,日本公認会計士協会常務理事,企業会計審議会臨時委員,国際会計基準委員会(IASC)日本代表等を歴任。東京大学経済学部卒業。著書『会計基準の考え方』(税務経理協会)他多数。落語及び相撲ファン,市民ランナー。
鶯地 隆継(おうち・たかつぐ)氏
有限責任監査法人トーマツ監査・保証事業本部IFRS部パートナー。
1981年住友商事入社,1993年英国住友商事経理課長(ロンドン駐在)。2005年住友商事フィナンシャル業務部長(内部統制プロジェクト責任者)。2008年住友商事フィナンシャル・リソーシズ・グループ長補佐。2006年から2011年までIFRS解釈指針委員会(IFRIC)委員.
その間,企業会計審議委員会臨時委員(内部統制),企業会計基準委員会専門委員他を務める。2011年7月から2019年6月まで国際会計審議会(IASB)理事。2019年10月より現職。