役員の報酬・賞与・慰労金の基本と実務Q&A<203> 代表取締役社長による各取締役の個別報酬額の決定はフリーハンドか(2)

 弁護士 小林 公明

( 30頁)

5 代表取締役社長の決定はフリーハンドか

前回( 本誌No.3476 参照)に続き,質問に対する回答として,代表取締役社長による個別額の決定に当たり必要とされる注意義務,その具体的内容及びそれらを踏まえて会社側の採るべき対応等を述べる。

(1)代表取締役社長の善管注意義務等

株主総会の限度額決議により会社からどれだけの額が流出するのかが明らかになる(それにより御手盛り防止という取締役報酬規制の趣旨の一つが満たされる)のであるから,個別額の決定を一任された取締役が,その限度額の範囲内で個別額を決定した場合には会社が害されることはなく,その決定手続が適法である限り,その決定に関与する取締役に違法の問題は生じないといえるか。

近年,その範囲内であっても職責・能力に不相当に高額な個別報酬であれば,御手盛りであり,逆に不当に低ければその者のインセンティブを損ない,いずれも会社の不利益となるとする見解が有力となっている(「会社法コンメンタール8巻」(商事法務)162頁[田中亘])。

この問題を正面から扱った裁判例(前掲東京地判平30.4.12)も以下のように判示し,その控訴審東京高判平30.9.26判例秘書L0...