新春特別寄稿 企業開示行政をめぐる状況

金融庁企画市場局 企業開示課長 島崎征夫

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Ⅰ.はじめに

コロナ禍の拡大により,企業を取り巻く環境の変化が加速している。デジタライゼーションの進展をはじめ,人々の価値観・行動様式の変化に伴い,顧客の求める財・サービスの変化,新たな働き方や人材活用の動きが進み,不確実性も高まりを見せている。その中で,我が国の金融資本市場が,コロナ後の実体経済の回復を支えつつ,産業構造の変革を先導していくことが期待されている。今回は,そうした金融資本市場を支える企業開示に係る行政について,2020年の取組みを振り返るとともに,2021年の課題をご紹介したい。

Ⅱ.コーポレートガバナンス改革

1.スチュワードシップ・コードの再改訂

2020年3月24日,金融庁に設置された「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(以下,「有識者検討会」)において,「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」の再改訂版(以下,「再改訂版コード」)が公表された。

再改訂版コードの内容は,コードの全体に関わる論点と,主体(運用機関,アセットオーナー,議決権行使助言会社等を含む機関投資家向けサービス提供者)ごとの論点に大別される。

全体に関わる論点のうち重要な改訂の一つとして,コード冒頭の「スチュワードシップ責任」が改訂され,機関投資家が,企業との建設的な対話に当たって,投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に加えて,運用戦略に応じたサステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を考慮することが明確化されたことが挙げられる。なお,スチュワードシップ・コードの基本目的が「企業の企業価値の向上や持続的成長を促すこと」により,顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図ることに置かれている点には変わりはない。

主体ごとの論点については,運用機関による議決権行使に係る情報提供の充実が求められている。再改訂版コードでは,「特に外観的に利益相反が疑われる投資先企業の議案や議決権行使の方針に照らして説明を要する判断を行った議案等,投資先企業との建設的な対話に資する観点から重要と判断される議案」について,賛否を問わず,その理由を公表すべきとの記載が追加されている。

また,昨今の議決権行使助言会社の影響力の増大に鑑み,再改訂版コードでは,「機関投資家向けサービス提供者」が新たに定義されたほか,アセットオーナーである企業年金のスチュワードシ...