<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第27回 市場か倫理か(財務vs非財務)(その2)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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「油断!」

堺屋太一さんが経済小説「油断!」を公表したのは1975年で,その2年前の1973年10月に第四次中東戦争が勃発し,世界をオイルショックが襲った。日本ではオイルショックは原油価格の高騰による狂乱物価という形で市民の生活に大打撃を与えた。日本政府は対策を急ぎ,サンシャイン計画という石油に代わる代替エネルギー資源開発に着手し,太陽光発電を中心とした持続可能なエネルギー供給について幅広い研究が行われた。環境保全もプロジェクトの一つの目的ではあったが,どちらかというと,紛争など政治的な理由によって中東からの原油供給が途絶えることへの備えという趣旨が強かった。

したがって,当時の代替エネルギー開発の発想は市場メカニズムが機能する枠内にあったといえる。すなわち,何らかの理由によって原油の供給が絞られれば,需要と供給の関係で原油価格が暴騰し,経済や市民生活に大きな影響が出る。それを防ぐために,市場メカニズムの中に,原油に対抗できる代替商品を送り出すということが主目的であった。つまり,実際に原油供給が遮断され,原油価格が異常に高騰した時に,初めてペイするということで問題なかった。しかし,実際の原...