<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第44回 持ち合い株(その1)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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花見酒

日本の古典落語に「花見酒」という傑作がある。その内容は落語としても面白いのだが,経済の仕組みの本質を突いているとも言われる。朝日新聞論説主幹であった笠信太郎氏は1961年頃の日本の経済を例えて「花見酒の経済」という言葉を使った。その後のバブル経済などを例えるのにも,花見酒経済という言葉が時々使われる。

少し落語のネタバレになってしまうが,その内容を簡単に紹介したい。花見をしながら湯呑み一杯の酒を五銭で売って儲けようと考えた二人組が,酒屋で三升の酒と酒樽と五銭を借り,酒樽を担いで向島へ向う。途中,酒のいい匂いに我慢が出来なくなった一人が,酒屋で借りた五銭をもう一人に払って一杯酒を飲む。それを見ていたもう一人も飲みたくなって,今もらった五銭で一杯飲んだ。そうして,お互いに五銭をやりとりして飲み続け,向島に着く頃には酒樽は空になってしまう。全部売り切れたから売上げの勘定をしようと金を出すと,五銭しかない。どうしてだろうと,売上を確認するが,お互いに支払いをして酒を飲んでいるので,ちゃんと売上は上がっている。落語の最後のオチは,勘定は合ってるし,酒も飲めたし,よかったじゃないかというもので...