投資家が企業に求める人的資本開示と人的資本開示規格ISO30414 〈前編〉

株式会社コトラ エグゼクティブコンサルタント 村上 慶

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1 投資家が企業に人的資本の開示を求めているのはなぜか

(1)ESG投資の増加

昨今の投資の世界では,ESG投資が急速に拡大しており,その投資金額,投資比率の推移は,【図表1,図表2】の通りです。

【図表1】ESG投資残高の推移

【図表2】ESG投資比率の推移

ESG投資とは,従来の財務情報に加え,E(環境),S(社会),G(ガバナンス)といった非財務情報を投資判断に組み込んだ投資手法です。

ESGの諸課題に関連した情報は,企業の長期的な収益環境に影響を及ぼす内容を多く含んでいるため,長期投資を行う投資家にはESG課題を投資判断の際の分析対象とすることは必須となっています。

ESG投資は,2006年に国連が提唱した国連責任投資原則(PRI)にて,ESG課題を投資プロセスに組み込むこと,企業に対してESG課題の適切な開示を求めたことを契機に,長期投資を行う投資家,主に年金基金に受け入れられ,拡大し始めました。

海外の公的年金基金は先行してESG投資を採用しましたが,日本では,年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年にPRIに署名し,2017年よりESG投資を開始しました。なお,GPIFは直...