<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第65回 OCIとリサイクル(8)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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大福帳方式

経理に携わる人の間では、複雑な会計処理を無視して、現金の出入りだけを時系列に追いかける方法を大福帳方式と呼ぶ。複式簿記がなかった江戸時代の商家で使われていた大福帳が、単式簿記であったろうとの推定に基づく表現であるが、実際の大福帳はそこまで単純ではなかったらしい。

貸方と借方を使う複式簿記はなかったものの、江戸時代の大店で使われていた経理システムは、和式帳合法というもので、取引先毎に口座を設けて売掛金や商品など、さまざまな出入りや残高を管理していた。つまり和式帳合は多種類の帳簿を用いて管理をする多帳簿システムだった。多くの帳簿の中心に大福帳があり、大福帳による時系列管理をベースにしてその他の帳簿の残高を整合させていた。複式簿記は、貸方と借方というダブルエントリーによる2次元管理システムであるが、和式帳合は1次元で、帳簿群を使って同じことを実現していたと言える。

3次元簿記

OCIは不思議な勘定科目である。OCIは貸方にも借方にも現れる。しかしOCIは資産でもなければ、負債でもない。分類上は資本の部に属するが、損益や剰余金を表象するものでもない。複式簿記というバイナリーな、二者択一的な...