<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第67回 Goodwillと無形資産(2)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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宝の持ち腐れ

日本経済がバブル崩壊以来の失われた30年に苦しんでいる真の原因は、日本企業から優秀な人材や技術が多く流失したからではないかといわれている。特に日本の製造業の優秀な技術を支えてきた技術者や研究者の多くが、日本企業を去り、アメリカや中国・韓国・台湾などで活躍の場を見出したという。人材や技術が流出した原因は、多くの日本企業で終身雇用制を前提とした年功序列型の報酬体系が採用されていたため、優れた成果に見合った報酬を適宜適切に与える仕組みが備わっていなかったことが大きい。

青色LEDを開発し、後にノーベル物理学賞を受賞した中村修二さんは、自身がサラリーマン研究者だった時代に海外の同業者からスレイブ(奴隷)中村というあだ名をつけられたという。それというのも中村さんの発明による成果に対して企業が支払った報酬が海外ではありえないほど低かったからだ。中村さんは勤務していた会社を訴え、青色LED特許の対価として200億円を求めた裁判を起こした。この裁判は「200億円裁判」と呼ばれ、さまざまな議論を巻き起こすことになる。青色LEDは、周りの他の研究者や関連部門の努力があって初めて実現できたもので、...