<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第85回 概念フレームワーク(1)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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1973年のピンボール

「1973年のピンボール」(講談社、1980年)は村上春樹氏の小説のタイトルである。この作品は村上春樹氏の第2作目の長編で、氏が醸し出す独特の空気感がぎっしりと詰まった名作である。物語は1973年の9月に始まる。大学を卒業し翻訳で身を立てていた「僕」が、ふとしたことからピンボールの魅力に取りつかれ、ある特定の機種を探し求める。ピンボールは、白い球が斜面を転がり落ちて来るのを、台の両側にあるボタンでフリッパーという羽をバタバタと動かして弾き返し、特定のターゲットに球が当たると得点となるゲームである。しかし、途中に設置されているバンパーという障害物に当たると、ディンドンという大きな音とともに球が弾き返され、思わぬ方向に球が飛ばされる。今の電子ゲームと異なり、実際の物理的な感触を楽しめるゲーム台である。

ピンボールは偶然性を楽しむゲームである。たとえば、ボールがバンパーに当たるとどちらの方向に弾き返されるかは、当たってみないと分からない。この予測不能性がこのゲームの醍醐味である。

「1973年のピンボール」という作品のもう1つの魅力は、1973年という時代背景である。作品の...