<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第119回 概念フレームワーク(35)

―キャピタル・メインテナンス(1)―

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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1円玉の重み

1円玉の重量は、ほぼ正確に1グラムである。1万円を全部1円玉に両替すると10kgにもなる。100万円だと1トンである。もし日本の貨幣が1円玉しかなければ、買い物をするのはさぞ大変なことになるだろう。しかしそれに近い状態に陥ったのが、第一次世界大戦後のドイツである。

高額の賠償金支払いなどによる経済の混乱から手のつけられないようなインフレに陥り、ピーク時にはパン1個が数千億マルクにもなった。当時はクレジットカードがなかったので、基本的に現金決済だった。したがい、パンを買うのに数千億マルクを物理的に支払う必要があった。インフレの亢進に合わせて、次々と高額紙幣が発行されたが、紙幣が変わるよりもインフレのスピードが速くて、お金を払うために荷車で紙幣を運ばなければならないということが実際に起こった。

インフレはモノとカネのバランスが崩れることによって起きる。ドイツで起こったことは、フランスとベルギーが、ドイツの賠償金滞納への措置としてドイツの工業地帯であるルール地方を占領したことに伴う、モノとカネのバランス崩壊であった。ルール地方を占領されたドイツ政府は労働者にストライキをさせることによ...